第1話 冷酷

 私は苛立っていた。


「おっとおっと。ここは通行止めでーす」

「おっほぅ、このお姉さん結構かわいくね?」

「なぁなぁ、お姉さんは今帰り? ちょっとばかしオレらに付き合ってくれね?」


 行く手を遮る男ども。数は……全部で五人か。胸に抱いた紙袋に思わず力が入る。

 お目当てのものを買い終わり、ようやく帰路につけると思っていた矢先これだ。人混みを避けようと路地裏に入ったのが誤算だった。


 無視して他の道を行こうとすると、木箱に座っていた長身の男が立ち上がり、また道を遮る。


「無視は酷くね? すこし話をするだけだってぇ。オレ、君みたいな長い赤髪の美人は超好みなんだよね」

「ってオマエ、前は金髪の娘とか言ってたじゃねえか」

「かわいければ誰でもいいんじゃねえかよ」


 ぎゃははは、と共鳴したように下衆びた笑い声がつづく。……とても不快だ。


「なにか言え……」

「寄るな。ドブ臭い息が顔に掛かる」


 鼻を摘まみながらそう指摘すると、口臭男は「……あ?」と笑みを消す。対して周りの奴らの笑い声は酷さを増した。「あっちゃー言われちまったなぁ」などと小馬鹿にしはじめる。

 それに応じて口臭男の機嫌はどんどん悪化していく。薄っぺらい信頼関係だな。


「うるせぇ……いいから言う事を聞けって言ってんだよ!」


 口臭男の手が私の腕をつかむ。

 我慢の限界だった。


「汚い手で触るな」


「へぇ?」その間抜けな言葉が口臭男の最期だった。


 私は口臭男の手首を掴み、肩を脱臼させる勢いで引っ張る。こちら側に倒れてきたところで頸動脈を爪で抉った。

 寸前で「しまった」と思ったが時すでに遅く、首の裂け目から鮮血が噴き出し、頭から胴体まで返り血を浴びる羽目になった。うぇ、汚い……クサイ……。


 ハンカチを取り出すためポケットを探っていると。


「この女……!」


 呆然としていた男たちが一斉に動き出した。


 先程の余裕が微塵も消え去り、警戒の眼差し。どこから取り出したのか、それぞれ手に刃物を持って向かってくる。

 尻尾巻いて逃げればいいものを。勝てる相手も見極められんとは、人間とはなんと知恵が浅い生き物だろうか。


 一人一人を相手にするのは激しく面倒だったので、まとめて燃やすことにした。

 魔法で手に小さな四つの火球を創り出す。それぞれに向けて放った。

 距離が短かったため当然すべて命中し、一瞬のうちに全身が火に包まれる。男どもは断末魔を上げることなく絶命した。


 やっと静寂を取り戻し、私は改めてハンカチを取り出し顔を拭う。赤に染まった衣服からは鉄錆の匂いがした。


「今度からは気をつけんといかんな…………って、あぁ!」

 気づけば紙袋の中も真っ赤に染まっていた。


 せっかく帰ってから楽しみにしておいたのに……! このクソどものせいでぇ……!


 腹いせに黒焦げの顔を踏み潰した。

 カシャッと頭蓋の砕ける音が、夕暮れの路地裏に虚しく響いた。

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