第12話 吾輩はお中元配りに忙しいのである


 夏本番、今日も怠いが負けられない!

 我輩のお世話となっているこの国には〝お中元〟なる伝統が残っている。

 旧暦のお盆頃までに、日頃からお世話になっている方々へ贈り物を送るといった何とも情緒あふれる風習だ。


 それは猫である我輩とて例外ではない。

 心より感謝を込めて、今日はお中元配りに勤しむ事としよう。


 

 やはり最初は三河家から。

 この家族へ送らなければ始まらない。

 恩知らずと言われるのも嫌だからな。


 普段からお世話になっている母上にはドレッサーの上へウシガエルを。

 この姿を見れば今よりもっとプロポーション維持へ力が入ることだろう。

 ある意味美容グッズだ。


 次は御姉妹へ。

 我輩たちの世界で〝ブラックサファイア〟と呼ばれる黒色に輝く生きた宝石。

 こいつを美也殿と小織殿の部屋にある下着の入っているタンスへ同じ数だけ放す。

 数が違うからと姉妹喧嘩になっても面倒だからな。

 グッジョブ我輩!


 ここで数匹が逃げ出そうとしたから前足で少し強めに押してやった。

 中身がぷちゅッと出て大人しくなるも、この場合は致し方がない。

 本来は鮮度命なのだが……ま、いっか。

 おかげで白やベージュのキャンパス地へいい感じの模様が出来た。

 悲鳴を上げて喜ぶ顔が目に浮かぶ。


 それが終われば今度はこの家における位が最下層である御子息の部屋へ。

 愚息の御長男は猫アレルギーらしいので、せめて我輩のニオイでも贈っておくか。

 とりあえず、至る場所へ大小便をまき散らしておいた。

 はたして彼はこの贈り物を喜んでくれるのだろうか?

 

 しかしこれだけでは何か物足りない気がしてならない。

 えぇい、ここは我輩の宝物を大盤振る舞いしてやるか!


 御子息の使用する布団の中へ採れたての〝ハチの巣〟なるものを丸ごといれた。

 メイドインジパングのはちみつは相当高価らしく、泣いて喜ぶだろう。

 勿論生きたプロポリス付きだ。

 

 そのせいか、運ぶ時に体中の至る場所が針で刺したようにチクチクとした。

 しかも今尚も継続中、現在進行形なのである!

 えぇいイライラするわ!


 腹いせの為、ベッド下にある裸の人間が載った雑誌を爪でビリビリにしておいた。

 おっと!

 更にその奥で丁寧にビニール袋へ入れられているお気に入りらしきものを発見!

 こいつは愚息殿のお宝だな?

 ならば尚更陽の目を浴びさせなければ!

 

 そんなワケで早速行動へと取り掛かる我輩。

 前足でそっと引きずり出すと、一枚ずつ剥がして家中へばら撒いてやる。

 肝心な場所が破れないようにかなり気を使いながら。


 

 あれ? 

 我輩なんの仕事をしていたのだっけ?

 ……まあいっか!


 今日も働き者な我輩であった。

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