第11話 吾輩は野菜が苦手である!


 最近我輩の住む町で家庭菜園なるものが流行りを見せている。

 やる気ゼロの我が三河家では、それら一切の面倒事を誰一人しようとはしない。

 などと思っていたのだが……。


 流行という名の恐ろしい洗脳。

 三河家愚息の長男でさえ裏庭に猫の額より狭い畑を作ってちょこちょこっと。

 この調子で行けばこの国は砂漠ならぬ土漠になってしまうのでは?

 そのような言葉が存在するのかどうかは知らないが。


 とまあ冗談はここまでにして、料理全般を熟す彼だからこそ思ったのであろう。

 家計を助けるためにと。

 

 仕方がないな。

 我輩も手伝ってやるとするか。

 一応御厄介になっているといった恩があるのだからな。


 

 狭いながらもかなりの種が所狭しと植えられている御子息の畑。

 それにビニールハウスなるものまで作られているではないか?

 

 もっとショボいと思っていたのに。

 素人候だと思ってたのに。

 なんとなく我輩の期待が裏切られたことで、ビニールの部分を爪で裂いてやる。

 

 するとどうだろう?

 パックリ割れて中が丸見えに。


 最初に我輩の目へと飛び込んできたのは赤いボール。

 土の部分に小さく白い墓標が立てられており、〝トマト〟と書いてある。

 栄養源はこの下に埋まる〝戸間途とまと〟さんなる死体なのだろうか?


 あっ!

 よく見ればこれは我輩が苦手とする奴だ!

 八百屋のクソジジイが口に無理やり入れてくるドゥルッドゥルのアレではないか!

 超不愉快!

 

 ボケジジイの顔を思い出し、思いっきり爪で引っ掻き回してやる。

 思った通り、裂け目からはドゥルッドゥルのアレが。

 ……ォェッ。


 一通り血の色に変色したやつを地面に落とし終えると、辺り一面殺害現場状態に。

 警部殿の真似事で楽しんでいると、隣にある緑の長い物に気付く。

 

 これには我輩も口から心臓が出るほど驚き飛び上がる始末!

 一瞬だが天敵の蛇に見えたのだ!


 落ち着いてみればなーんのことは無い。

 しかし心臓に悪いから猫チョップと猫キックで真っ二つにへし折ってやった。

 

 更に隣には紫色のびよーんとした感じの野菜がある。

 時々三河家を訪ねてくる愚息の友人になんとなーく似ているな。

 結構イラっとするかも。


 とりあえずコレに爪と立ててゆっくり差し込んでやる。

 するとどうだろう?

 ギュワギュワと不思議な感触がして何だか気持ちいい。

 イヤッホーゥ!

 

 大小問わずぶら下がっている全てのソレを穴だらけに。

 ストレス解消サイコーっ!

 

 偶にはこんな仕事があってもいいだろう?

 仕事戦士はいつも精神的緊張を抱えているのだから。


 今回の仕事は我が三河家のみ。

 近所に住むニャー吉曰く、バイク屋の親父も菜園を始めたようだと。

 ならば明日の仕事現場はそことなるだろう。


 

 今日も仕事の予約を取ったニャゴローであった。

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