第9話 吾輩達は時々車に轢かれるのである!
人間とは不思議な生物である。
機械の塊〝車〟なるものを異様に愛でる。
とはいえ、全員ではない。
とかく自然豊かな田舎ではその傾向が強い。
老若男女が週末になると眩しいまでに磨き倒す。
我輩の住むここ等辺りはとても都市部とは言い難い。
ご近所様は一家に一台どころか一人一台所有しているのが普通。
今日はそんな〝車〟に対してビジネスを展開していこう。
なるほど、これが自動で走る車なるものか。
どれどれ。
商品を見極める為、先ずは爪を剥き出しにする。
そして思いっきり前足でボディに対し、力を入れながらゆっくりと引っ掻く。
合格の証しであるかっちょいいラインの出来上がり。
塗膜テストはまぁこんなものだろう。
思いのほかしっかりと塗ってあるものなのだな?
結構結構っと。
次は雨水を掻き出す装置の耐久テスト予定であったが、突如襲う激腹痛。
ガマンは良くないとガラス一面に下痢便をぶちまけてしまった。
しかも前後の足で踏みまくってしまい、気持ち悪いからあちらこちらを足り回る。
黄色い肉球の跡がベタベタついてなんとも可愛らしいこと。
このような動物足跡ステッカーを貼っている愚か者も見かけるから良しとするか。
最後にあちらこちらで拾い集めた〝釘〟なる炭素の剣を使用しての吸着テスト。
タイヤなるゴムの塊近くへ大小様々ばら撒いてやる。
これであの黒いゴムへどれだけ吸い付くかを見極める。
この〝釘〟というヤツは我輩の仕事場である建設現場によく落ちているのだ。
例の肉球印を押す場所。
特に〝五寸釘〟なるものは重宝する。
こいつをタイヤの面に対し、ナナメ60度ぐらいに立てかける感じで使用。
後は時間との勝負。
今度は車が居なくなる時間を見計らい、改めて確認しに行く。
ばら撒いたうちの50%も無くなっていればまぁ良しとしよう。
特に〝五寸釘〟が見当たらなければ大成功と言っても過言ではないな。
そんな車というモノは我輩達にとっても結構便利な道具と言えよう。
人間等の眠る夜になると、ボンネット上は忽ちダンスステージへ。
数匹の猫達による夜通し踊りまくり企画があちらこちらで開催。
特に黒く輝く車が超クール。
終わればどれだけ激しく踊ったかが傷でわかるのだ。
イヤッホーッ!
冬場におけるボンネットの上やエンジンの下は暖が取れる数少ない野外場所。
その為、複数の野良によるミィーティングが随時行われる。
ここで注意しなければならないことがある。
特に下の場合、論議が朝まで続くと時々仲間がさらわれて消えるのだ。
数日後に同じ場所で毛皮のみが発見されることとなる。
いったい中身は何処へ行ったのやら……?
夏場は窓ガラス全開のまま駐車しているヤツを見かけることもある。
中にある布地のシートとやらは吸水性に優れておりトイレに最適だ。
しかも爪が引っかかってモーレツ面白い。
ストレス発散には最適かも。
気のせいか、それらは比較的小さな車に多い気がする。
このように我輩達の身近にある多種多様な車の数々。
慣れもあってか、つい油断して飛び出すことがある。
これで何人の仲間がなめし皮となったことか……。
それらを思い出し、我輩は少しセンチな気分に。
今日は早めの仕事終わり。
それならば今から現場へ弔いの酒を撒くことにしよう。
「お、ニャゴロ―じゃん」
あ、美也殿だ!
捕まったら何されるか分かったもんではないぞ!
逃げろっ!
{キキィ――――――ッ! ドンツ}
こうしてぼんやり赤く染まった白黒のなめし皮が、この町で新たに一枚出来上がったのだった。
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