第7話 吾輩は優しい女性が大好きである!

「あらニャゴローちゃん。コンニチワ」


 我輩が寄生する三河家が最近なんとも騒がしい。

 とある理由で様々な人間のメスが頻繁に出入りするようになった為である。

 だからと言って別に嫌なワケではなく、寧ろ大歓迎なのだ。

 中でも特にこの〝小糸こいと〟と呼ばれる人物を我輩は気に入っている。


 理由は単純明快の明朗会計。

 大好物の手羽先や、焼き鳥なるものを良く持参して来るからだ。

 い、言っておくが食べ物に釣られたのと違うからな!


 だがそんな彼女にも一つだけ大きな問題が。

 異常ともいえるほに三河家御子息を愛でているのだ。

 尤もそれは彼女だけに限ったことではないのだが……。

 ちょっとだけ嫉妬。

 

 しかもこのメスは相当に賢い。

 隙あらば策をめぐらせる。

 今回も目的ありきでこの場を訪問、やはり動き出した。

 自分以外に誰もいなくなったタイミングを見計らい、我輩をその手でキャッチ。

 人間の雄が目にすればイチコロであろうセクシーな膝の上に乗せると、


 「ねぇニャゴローちゃん。ちょっと私の頼みを聞いてくれる? 二階にある彼の部屋へ行ってこの私が使っている香水と同じ成分のコレをまき散らしてきてほしいの。今度は違う美味しい物持ってくるからお願い! ねっ!」


 どうして我輩がと知っているのかモーレツ謎。

 (美也と一緒にTVを見ることである程度学習済み)

 しかし普段お世話になっていることもあり、二つ返事で仕事を請け負う。


 『ミャッミャン?』


 すると彼女はニヤリと笑い、何かの動物をぶち殺して且つ剥ぎ取った皮膚から作られた生類たちの怨念がこれでもかと詰まった感アリアリの鞄の中から怪しい小瓶に入った液体を渡してきた。

 

 ってか、もしかして我輩の言葉も理解してる?

 いやいやそんなはずは……。


 「じゃあお願いね。いってらっしゃい」


 疑問はさて置き、我輩はそれを口で咥えると御長男の部屋に向かい猛ダッシュ!

 が、途中美也殿の部屋を横切るとき、中からなんとも言えぬいい匂いが……。

 

 そっと扉を開けると、彼女らしくパーな色彩で彩られたテーブルが目に飛び込む。

 見た者の視力と脳を一度に破壊するその酷いセンスには最早脱帽。

 しかし我輩よろめきながらもその卓上であるものを発見。

 

 なんとフルーツ界のピンクダイヤモンド、佐藤錦ではないかあれは!

 部屋へと侵入後、辺りに本人がいないことを確認、そして大口で頬張ると……


 消しゴムだった。

 

 つくづく我輩とは合わない美也殿。

 不愉快だったから咥えて持って来た小瓶の中身をベッドにぶちまけてやった。


 部屋を出ても苛立ちが収まらない我輩。

 ストレス発散も兼ねて御長男の部屋へ行き、中を走り回って毛まみれにする。

 

 ついでに机の上に置かれた筆箱とやらの中身をぶちまけてやった。

 しかもペン型の物全てを自動鉛筆削りとやらに挿入、原型を失くすことに成功。

 その削りカスも辺り一面へとまき散らす。

 

 尚、消しゴムは一番最初に窓から投げ捨てた。

 勿論筆箱に入っていた御子息のヤツを。


 そもそもイライラの原因は美也殿の佐藤錦消しゴムのせい。

 思い出すだけでも腹立たしい!

 御子息は無関係も、血を分けた兄妹だから許すべからず!

 部屋を出るときトドメのクッサイクッサイおならをお見舞いしてやったわ!

 あースッキリした!

 

 こうして我輩は部屋を出て行った。

 本来の目的を完璧に忘れて……。


 

 リビングに戻るもまだいる小糸殿。

 悪魔さえも魅了するようなうっとり流し目で我輩をジッと見つめてくる。

 

 ハテ?

 なんか約束したっけ?

 

 とりあえず甘えて様子を伺うため、その膝元に飛び込んでみた。

 すると彼女は我輩の丸い背中を撫でながら優しくこう話し掛けた。

 

 「いいコねーニャゴローちゃん。次も頼むわよ」


 このように我輩は次の契約をゲット。

 営業ピカ一成績も伊達ではない。

 日々努力の賜物なのである。


 

 しかし今日はなんか仕事したっけな?

 まあいっか。

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