仕事猫ニャゴロー

どてかぼちゃ

第1話 吾輩は飼い猫である!


 我輩は飼い猫である。

 名前は既に『ニャゴロー』とつけられている。

 どこぞの〝ニャン太郎〟や〝ニャン吉〟とタメ張るダサさに少々困惑気味。

 

 そんな我輩は日々多忙を極める。

 仕事師として、職人として、芸術家として、或はその他と諸々として。

 実際のところ、こんなことをしている場合ではないのだ。

 それでも我輩の仕事ぶりを見たいというのならば仕方がない。

 これからあらゆるスキルを持つ我輩の日常をご紹介しようか。

 では早速出かけるとしよう。


 

 今日も塗りたてのコンクリートに肉球ハンコを押す為、物件をせっせと探し回る。

 途中、駄菓子屋を経営する明日にでも死にそうな婆さんの所にピットイン。

 〝やっちゃん酢イカ〟を与えられ、その場で腰を抜かして脱糞する醜態を披露。

 照れ隠しで店先に整列するガムやグミなどの商品を何箱かひっくり返してやった。

 

 そんな時の出来事。

 どこからかガタガタ激しい地響きがする。

 これは間違いなく建設中の何かがあると踏んだ我輩は小走りで音のする方へ。


 

 鉄筋コンクリート三階建ての小規模な新築マンション。

 土建屋と言われるチンピラ集団が徒党を組んで築き上げる欲まみれの造形物。

 どうやら完成間近な模様。

 

 先ずは手始めに壁紙業者と呼ばれるボッタくりの愛用する車の中へ乗り込んだ。

 後部にはクロスと呼ばれる巨大トイレットペーパーが所狭しと置かれている。

 それを爪とぎしながら引っ掻き回すとストレス発散に丁度いい。

 立てて並べてあるものはわざわざ横にして車外へと蹴り出した。

 コロコロと転がり広がる様は〝あれぇ~っ、お代官さまぁっ!〟とでも言いそう。

 愉快愉快であー愉快!


 次は隣にある車へと移り、道具箱とやらをぶちまける。

 前足と爪を上手く使ってかき分けると、のついた人殺しの道具を発見。

 しかもがついた拷問道具やのついた角材まで!

 注:ノミ、ノコギリ、カンナ


 これは非常に危険!

 早急に対策をせねば!

 

 我輩の可愛らしい前足など簡単に落としてしまいそうなよく手入れされた道具類。

 天敵と言われる塩分豊富のオシッコを掛けて酸化を促進してやる。

 ついでにクッサイクッサイねっちょり糞もセットでしておいた。

 ふう、これで少しは危険から遠ざかるであろう。


 それではいよいよメインディッシュの判を押す作業に入ろう。

 人間数人掛かりで段差一つなく仕上げられた駐車場と呼ばれるこの場所。

 もちろん、中へ入られぬよう綱をひいて通せんぼされている。

 しかも角地には水の入った透明の容器が置かれているではないか。


 なめるなよ人間!

 我輩達猫がこんなことぐらいで避けると思うな!

 そんな知恵があれば端から貴様らのいない隙など狙うか!

 堂々とするわ堂々と!

 

 その言葉通り、悪びれることなくスタスタスタ―っと横切って行く。

 初めは軽やか、そして中盤は全体重を乗せてハッキリとした肉球の跡を残す。

 

 素晴らしい!

 これぞ芸術!

 そしてこれぞ職人技といえよう!


 途中、人間に見つかり追い立てられて大ピンチとなる。

 しかし動物愛護を盾に人気の多い場所を選んで逃走、最終的に諦めた模様。

 気持ち的に最後の仕上げまで届かなかったことが非常に悔やまれる。

 我輩のサインである引っ掻き跡を残せなかったのだ。


 それでもここ最近太り気味だった我輩。

 ダイエットには丁度いいぐらいの追いかけっこだったとポジティブに考えよう。


 

 今日もいい仕事をしたと我が家である『三河家』へと帰る事にするか。

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