第11話 (+ 92 94 90 89)

 暦の話をしようと思う。


 グレゴリオ暦以外の太陽暦として、イランを中心にペルシャ語圏で使われているペルシャ暦(イラン暦)を挙げたが、これは春分を年初とし、1~6月を31日、7~11月を30日、12月だけが29日で閏年は30日になる、という大変わかりやすい暦である。

 また類似した暦としてインド国定暦というものがあり、こちらは春分の翌日を年初とし、2~6月が31日で残りは30日。閏年は1月を31日にして調節する、これまたシンプルな規則になっている。

 グレゴリオ暦が「西向くさむいらい」などと語呂合わせで大小月を憶えなければいけないのに比べると、大変簡便である。

 さて、なぜ両者は一年の前半(グレゴリオ暦の4月から9月頃)に大の月を集めているのだろうか?


 実は、一年を春分・秋分で分けた時、春分‐秋分間の方が、秋分‐春分間より長い、という事実がこの背景にはある。


 論より証拠、計算してみよう。

 国立天文台の暦要項から2018年の春分~2019年春分までの二至二分を取り出すと次のようになる。


2018年春分 2018/03/21

2018年夏至 2018/06/21

2018年秋分 2018/09/23

2018年冬至 2018/12/22

2019年春分 2019/03/21


 このままでは計算がしにくいので、前回紹介したユリウス通日数(JDN)に変換してみる。


2018年春分 2458198

2018年夏至 2458290

2018年秋分 2458384

2018年冬至 2458474

2019年春分 2458563


 単純な引算が示すところ、2018年春分‐(92日)‐2018年夏至‐(94日)‐2018年秋分‐(90日)‐2018年冬至‐(89日)‐2019年春分となる。春分‐秋分間が186日、秋分‐春分間が179日である。北半球では夏の方が長いわけである。

 なぜこうなるかについては、地球が太陽を回る公転軌道が真円ではなく楕円であり、太陽が片方の焦点にあるため、一年を通じ地球が太陽に近づいたり遠ざかったりしていることに起因している。興味のある方は「ケプラーの法則」で調べてみて欲しい。

 ともあれ、地球が公転軌道上を動く線速度は、遠日点のある夏に向かって遅くなり、近日点のある冬に向かって早くなっている。


 ペルシャ暦やインド国定暦はこの自然の摂理を暦に反映させているわけである。

 特にペルシャ暦は小の月を基本30日としつつも12月を敢えて29日(平年)とすることで、1~6月が186日になり、後半7~12月が179日に一致させている。この結果、ペルシャ暦の7月1日は秋分の日になる。

 十進法に拘ったフランス革命暦とはまた違った合理性・科学性がそこにはあり、何度見ても感心するのであるが、ペルシャ語圏以外での知名度がそれほど高くないのが残念なところである。

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