第13話 計算違い
シルフィがふたりを案内したのは、図書館裏のひとけのないところだった。
ここは普段でも誰もくることがなく、どことなく陰気な感じだ。
花壇はあるのだが、誰も手入れしていないのか、雑草ばかりが目立つ。
「ほら、あそこよ」
シルフィの指さすほうを見てみると、紫陽花がしおれており、その周辺をふわふわと二匹の黒い蝶が舞っている。
「魔族、二匹もいるよ!?」
「やっぱりここは巣食いやすいのね。二匹……か」
「二匹同時に退治する方法か……」
亮は、早くも前向きに考え込んでいる。
「魔族が変に素早く動かなければ、なんとか同時にいけるかも」
「ほ、ほんと? 湯川くん」
「うん。一匹の魔族に当てたボールを、そのまま二匹目に当てるんだ。ひまわりパワーでできたボールを魔族に当てたことはまだないけどさ、少しは相手もひるむんじゃないか?」
「ボールをそんなふうにできるの?」
「サッカーボールで、俺、よく空き缶に当ててそういう遊びをしてるから。たぶんいけると思う」
なるほど、と陽真は感心してしまった。
「うん、……やってみるしかないよね」
陽真はうなずき、シルフィがステッキを振る。
透明な扉が現れ、三人はそこをくぐった。
校内のどこかから、人声がかすかに聞こえるが、平日ほどではない。
すぐそばの図書館にも人はいるかもしれないが、大きな声を出さなければ見つかることはないだろう。
とにかく、早めに終わらせなければ。
魔族はまだ陽真たちに気づいていないようだ。
陽真と亮は目で合図し合い、まず亮がひまわりのブレスレット、そのチャーム部分を半長押しした。
まもなくしてブォン、と亮の足元にサッカーボール大の黄色い球が現れる。
亮は慎重に狙いを定め、「いっけぇ!」と勢いよく黄色いボールを蹴った。
一匹の魔族にまっすぐに飛んで行ったボールは、まずその魔族にクリーンヒットし、軌道を変えて二匹目の魔族に向かった。
魔族がボールに気づいたときは、もう遅い。二匹目の魔族にもボールはきれいにヒットし、今度は昨日のように陽真に向かってきた。
そのときには陽真もチャーム部分を半長押ししていて、パワーがたまっていた。
ボールがブレスレットに当たると、黄色い光がぶわっと広がり、黄金のグランドピアノが現れた。
光る鍵盤は、昨日とはまた違う部分が光っている。
相手が二匹だからか、昨日よりも少し複雑な指使いをしなければ弾けない並びだ。
でも、これくらいならまだ陽真は弾ける。
魔族たちは二匹とも、亮が当てたからだろう、ひまわりパワーによって地面に倒れ伏している。
けれど、時間を置いたらまたすぐに動き出してしまうかもしれない。
陽真は急いで、でも慎重に、光る鍵盤だけを選んで思い切り指でたたいた。
「花花まわれ 花よ咲け──!」
そう祈ることも忘れない。
ジャーン! とピアノの音が鳴り、二匹の黒い蝶めがけて光の矢が飛んで行った。
グアアァァァアァァ──!!
断末魔の叫び声を上げて、二匹の黒い蝶は消え去った。
紫陽花を見てみると、しおれていたのが嘘のようにキラキラと咲いて輝いている。
そしてブレスレットを見てみると──。
「お! 二つも色がついてるぞ!」
「ほんとだ!」
陽真と亮は、歓喜の声を上げた。
青い色に続いて、今回は二つ色がついていたのだ。赤と、緑の色が。
「二匹魔族を倒したから、きっと二匹ぶんの色がついたんだね!」
「うん! きっとそうだ!」
けれど、シルフィは首を傾げた。
「おかしいわねぇ」
「どうしたの? シルフィ」
「本来なら、今回で全部色が集まる──魂の欠片も全部集まる予定だったのよ」
「えっ!?」
シルフィの爆弾発言に、陽真と亮は驚いた。
「あなたたちに言うとプレッシャーがかかって失敗する可能性もあるから、言わないでいたんだけど……それくらい、この学校には魔族が集まっていたのよ。二匹だけ? って不思議に思ったくらいよ。でも、二匹ともがそれなりに強力な魔力を持っているのかも、と思っていたんだけれど……これは、魔力があちこちに散ったかもしれないわね」
「散った? どういうこと?」
困惑する陽真に、シルフィは教える。
「つまり、魔族が直前になって警戒して学校の周りにそれぞれ姿を隠したっていう可能性があるのよ」
「なるほど。俺たちのことをかぎつけたってことか」
「たぶんね」
でも、とシルフィは続ける。
「でも、それもあくまでもわたしの推測にすぎないわ。ちょっといやな予感もするから、一度ルイシュタルトに戻って、ばばさまに聞いてくることにするわ。そのあいだ、陽真と亮。あなたたちも学校周辺を探るようにしてちょうだい。危険なことにならないように気をつけて、無理をしない程度にね。ブレスレットが反応すればそこに魔族がいるってことだから、その時点で引き下がって、その場所を覚えるだけにして。くれぐれもわたしが戻るまで、退治をしないようにね」
「わかった!」
「うん、わたしもわかった!」
「それじゃ、いってきます!」
シルフィは気合を入れた表情でそう挨拶し、姿を消した。
「なんだか、ちょっと恐いな。なにかわからないことが起きてるって、恐い」
陽真がぎゅっと拳を握りしめると、その手をぎゅっと亮が握りしめてきた。
あたたかいぬくもりに、ドキドキするよりも、いまは安心感を覚えた。
「大丈夫だ。俺がついてる」
その言葉には、ちょっとドキッとしたけれど──。
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