魔女と手紙

たぬきぐま

魔女と手紙

ある日お母さんはどこかへ行ってしまった。何も言わず何も残さず消えてしまった。お父さんに聞いてもおばちゃんに聞いてもそんな人知らないって言う。確かにいたはずなのに覚えているのは私だけみたい。私はふと昔おばちゃんから聞いた村の言い伝えを思い出した。


「村の山には魔女が住んでいる。魔女を怒らせた人は連れ去られて食べられてしまう。」


お母さんは魔女に食べられてしまった?お母さんは魔女に何かしたの?そもそも魔女は本当にいるの?そんなこと考えたって答えなんか出るはずもなかった。でもおかしい、なんでお父さんもおばちゃんもみんなお母さんのことを忘れてしまっているのに私だけ覚えているの?

でもお母さんのことを覚えている私ならお母さんを探し出せるかもしれない、そんな考えが浮かんだ。


まず私は村の歴史について調べることにした。村には小中高、それぞれの学校が1つずつ。私が通う高校には図書館も併設されている。私は図書館へ向かい村の歴史について書かれている本を手に取る。代々村長が書いている物だ。さらりと目を通しているとある言葉が目に入る。魔女だ。書かれたのは70年前の6月だ。

「村人が一人突然姿を消した。きっと魔女の仕業に違いない。今度こそ始末しなければ。」

この魔女とはいったい誰のことを指しているのだろう。ページをめくると1ヶ月後に違う筆跡で、前村長が気狂いを起こした後に姿を消した、そう書いてあった。

以降魔女について明記している部分はなく、淡々と村の出来事が書かれているのみであった。


私は今日のところは切り上げて家に帰ることにした。家について部屋に入ったとき私はあることに気がついた、机の棚にあったアルバムがなくなっている。小さい頃の日記もない。他に何かなくなっていないか棚を漁り、1つの本を手に取ると紙切れが足下に落ちてきた。


「この村はおかしい。香奈、あなただけでも逃げて、誰の手も届かないところへ。」


お母さんの字だ。誰から逃げれば良いの?魔女?それと村がおかしいって・・・?

お母さんは何か知っていた、それが姿を消した原因なのかもしれない。でもお母さんの物はすべてなくなっていて手がかりはない。でももしかしてあそこなら何か残されているかもしれない。私とお母さんだけの秘密の場所なら。


小さい頃お父さんに怒られたとき、家の裏山にある洞窟に隠れて泣いていた。でもお母さんは私を見つけて慰めてくれた。それからも怒られてはそこへ行きお母さんがやってきてはいろんな話をした。私小学校に上がる頃にはそんなことはしなくなっていたけれど。

私は何か確信めいた物を抱いて裏山の洞窟に向かった。洞窟に着いたがそこには何もなかった。中に入ってからまわりをよく見てみると、地面が一部分だけ少し盛り上がっている。

急いでそこを掘り返すと缶の箱が出てきた。その箱を開けると中にはお守りと手紙が入っていた。お守りは厄除けのお守り、何か不気味な物を感じつつ手紙を広げた。


「香奈へ この手紙を読んでいるということは、お母さんはもういなくなってしまっているのでしょう。ごめんなさい香奈、あなたを置いていってしまって。部屋の本に挟んだ紙が残っているかわからないからここでも書くわ。香奈、逃げて。この村から逃げて。この村に伝わる魔女の話、あれはただの言い伝えじゃない。実際に起こった話なの。でも犯人は魔女なんかじゃない、村の人々が起こしている物なの。私はお父さんと結婚して、お父さんの故郷であるこの村にやってきた。何も知らずに。この村は食人の村。外からやってきた人を殺し、その肉を食べ臓器を売る。そうやって暮らしてきた村だった。偶然見てしまったあの光景が頭から離れない。後ろをつけられていたようで、私もいつか殺される、私は逃げることは出来ない。せめてあなただけは生きていて欲しい。どうか逃げて。 お母さんより。」


ああ、お母さんは死んでしまったんだ。優しかったお母さんは帰ってこない。そう突きつけられた私は誰もやってくることのない洞窟で泣き、そして復讐を誓った。


良心的な人に届きますように、そう願ってメールの送信ボタンを押した。私は黒い服で身を包み村の中央にある山へと向かった。立ち入り禁止の柵を乗り越え、暗い山道の階段を進んでいくと薄く明かりのついた建物を見つけた。きっとあそこだろう。私は森の方へ入り建物の近くまで回り込む。開いた窓から逆さにつるされた頭のない死体と村長が見えた。誰かと話しているようだ。

「深入りしなければ長生きできた物を。全く馬鹿な女だな、君の妻は。」

「少し抜けているからこそバレないだろうと娶ったんですけどね。でもおいしそうな体でしょう?」

目がくらむような光景が目に飛び込む。村長と話しているのはお父さんだ。でも本当は薄々わかっていた、お父さんも関わっていることも。でもいざその姿を見るとまた涙がこみ上げてきた。いけない、しっかりしなければ。そう思い直し私は携帯のカメラを向ける。この写真を撮ってネットに上げればこの村も終わる。ここで終わらそう、その思いでシャッターボタンを押した。突然頭が揺れた。私は殴られたのだと倒れた後に理解する。どうやら私も後ろをつけられていたみたいだ。

薄れる意識の中で村長の笑い声が聞こえる。

「本当に馬鹿な親子だよ、君のところのは。」

私の意識はそこで途絶えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

魔女と手紙 たぬきぐま @araiguma_3sei

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ