ボーイフレンド

紗谷 瞬

21:50



だからと言って難しい言葉を知っていたり、人から羨ましがられる何かを持っていたりするわけじゃない。


それでも俺は本が好きで、読書する自分が好きで、そうじゃない俺を思い浮かべられない。

たとえ家計が財政難で、毎日カツカツの生活だったって、赤字決算だったって、本にかける金なら無限に出す。

まあ、実際は無限とはいかないが。


飯なら一食や二食抜いたって生きていけるけど、欲しいと思った本を買わないなんて、心が死んでしまう。本にかける金は削れない。


そう、削らないのではなく、削れないのだ。これはもう仕方がない。

読書は心の栄養とか言う言葉を聞いたことがあるけど、俺にとっては空気であり心臓だ。

より良い成長を促すためのものではなく、生のためになくてはならないものだ。

なんてな。


中でも俺は紙の本が好きだ。

そして、その紙の本は今、存在が危ぶまれている。

実際の調査でも紙の本の購入数は減っているし、購買数が減ったためになくなってしまった雑誌も何誌も知ってる。

あの特集とか好きだったんだけどな。


だけど俺は、よく欠点と言われる紙の本の便利じゃないのも、重いのも、かさばるのも、良いところだと思ってる。

ページを捲るかさりともはらりとも言える音も、つるつるともさらさらとも言える感触も、そこに味があって醍醐味だとすら思っている。

そもそも、本が便利である必要はない。読みたい奴が、自分の欲求を満たすために読むんだ。

本を持ち歩くことで肩が痛くなり、かさばることで家に本棚が増える。それでも読みたい。

本は俺たち読み手のためにあるものじゃない。作家さんが描いた作品に金を払い、己の欲求を満たすために読ませてもらうものだ。

振り回されるのは俺たちだ。

まあ、紙じゃない本を否定するわけではない。今まで読んでこなかった者たちに広い門戸を広げてくれている。

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