第39話

「ええ、あなたならそれは可能でしょうね。私より強いもの。いつかは自分よりも強いやつと対峙するときがあるかもしれないとは思っていたけど、まさかこんなにも早くこのときがやってくるとはね。ちょっと想定外だったわ」


真琴は下を向いてかがみこみ、何かを拾った。


しかし角度的な問題で、それが何であるかは俺からはよく見えなかった。


再びとしやが唾を飲む音が聞こえた。


真琴は再び男を見た。


「確かに凄い力だけど、その力、生きている私には勝てても、死んで肉体を捨てた私には勝てないわよ」


そう言うと真琴は、手に持った何かを首に当てた。


そのときそれが何であるか、俺にも見えた。


それはガラスの破片だった。


真琴はその破片を力をこめて引いた。


ぶしゅっ


確かに音がした。


そして真琴の首から、まるで放水でもしているのかと思えるほどの大量の血が、噴出してきた。


「……」


「……」


やがて真琴はゆっくりと地に倒れこんだ。


しかし確かに倒れたはずなのに、そこに真琴が立っていた。


淡く白い真琴が。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る