第36話

真琴はそう言うと、何かをぶつぶつと呟き始めた。


それはかなり小さな声の上に、どうやら現代の日本語ではないようで、俺には何を言っているのかさっぱりだった。


単語の一つすら聞き取れなかった。


そしてしばらくすると真琴が手を離して立ち上がった。


「終わったわよ」


「えっ、もうですか」


「そう。あの子は行くべきところへいったわ。もう二度と現世には戻ってはこないでしょう。それじゃあやることはやったし、私はもう高知に帰らないと。ほおっておけない姉がいるしね」


真琴は部屋を出て階段を降りた。


ついて降りると、としやが下で待っていた。


天野真琴の除霊。


ちょっと前のとしやなら見逃したら一生後悔するであろうことを、自ら見ることを放棄したのだ。


「……」


俺は何も言えなかった。


真琴が軽く微笑むと、としやの肩を叩いた。


そして真琴は家を出ようとしたが、不意に立ち止まった。


そして何かを見ていた。


そこに何かがいた。

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