真琴という女
ツヨシ
第1話
僕の家の近く、田んぼの真ん中に一軒の空き家がある。
僕が生まれたころにはすでに空き家になっていて、今では立派な廃墟となっていた。
僕が今よりももっと子供だったころ、母に聞いたことがある。
「あの家、なんなん?」
すると母は、「あれは昔っから人がおらんのや」と言って、それ以上詳しく話してはくれなかった。
ためしに父にも聞いてみたところ、同じような反応だった。
子供たちの間では幽霊屋敷呼ばわりするものもいたが、なにせ東西南北を全て田んぼに囲まれているために、風通しと日当たりは抜群なので、日中に見るとおどろおどろしさは皆無で、ただの朽ちかけた小さな家にしか見えなかった。
一応、土地と家の持ち主はいるのだが、どうやら関東のほうに住んでいるらしく、この家は長い間完全に放置しているようだ。
まわりの田んぼは僕の叔父さんと近所の人の持ち物で、この家の持ち主とは何の関係もない。
ただ時折思い出したように、父や母や叔父さんや近所の人に「あの家には近づくんじゃない」と言われるのが、ふに落ちなかった。
理由を聞くと「もう崩れかけとるけんなあ、危ないやろ」とのことだが、確かに古いがちゃんとした木造建築で、今日や明日に壁や天井が崩れ落ちるようには見えなかった。
としやに聞くと「僕もかあちゃんに、あの家には近づくなと言われたわ」とのこと。
どうやら他にも同じことを言われた子供は何人もいたようで、良い子はその言いつけを守っていた。
僕も守ってはいたが、それは言われたことは守らないといけないと思ったわけではなく、ただ見つかって怒られるのが怖かっただけなのだが。
とにかく本道から家までの間に身を隠す場所がないので、いつ誰に見つかっても不思議ではない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます