Sixth Bullet

No.NAME

プロローグ

 僅かな人の声さえも聞こえない、月の明るい夜の事であった。

 

 ある男が一人で人気のない路地を歩いていた。

 とあるを無事に終え、帰路につく途中だった。

 この男は裏社会では有名で、表向きは貿易会社の専務だが、裏では横領や情報の改ざん、果てには組織犯罪にまで手を出しているような人物だった。


 それ故、敵は多かった。


 そんな男を殺しに来る輩は多く、今まで男はそれら全てを返り討ちにしてきた。



 ――しかし、今回は相手が悪かったのだ。


 ありえない速度でが男の目の前を横切る。

 それは男の頬を薄く切り裂き、男は頬を押さえて後ろを振り返る。


 それは小さなナイフだった。



「やぁ、こんばんは」


 狂気すら感じる程の満面の笑みを浮かべた少年が、先程まで誰もいなかった場所に突然現れたのだ。

 歳はまだ16、7歳と言ったところで、黒のパーカーのフードを深く被り、スキニージーンズを履いていた。


 そのしなやかな肢体からは圧倒的な強者のオーラが漂い、一部の隙も感じられなかった。


 彼もまた、裏社会では有名な人物で、若干10代にして凄腕の殺し屋だった。


「……俺を殺しに来たのか」

 畏怖と恐怖の入り交じった声音で男が問う。

「僕のこと、知ってるんだ。……その通りさ。クライアントの情報については守秘義務があるから言えないけど」と、年相応におどける様な声で言った。

「大方俺を恨んでいる奴の依頼だろう。最も、俺を恨んでいる人間の数などわからん、誰が頼んだのかなど特定するだけ無駄だ。どうせ誰かなんて覚えていない」

 と、男は早口で捲し立てた。


「そんなに恨まれるような事して、楽しい?」

「楽しくは無いさ。ただやる価値はある。それをすることによって俺は巨万の富を築いたのだからな」と、男は何処か自慢げに答えた。

 すると少年はちっ、と舌打ちをして、

「……何だ、思ったより短絡的だな。もっと面白い返答を期待していたのに…


 アテが外れたみたいだ」



「ま、待て、は、話をしよう、か、金ならいくらでも出す!!」

 

 全ての表情を消し去った無表情で拳銃を取り出し、何の躊躇もなく引き金を引いた。



 男は絶命し、その場に倒れた。



 何の感情も篭っていない冷やかな目で男の死体を蹴り転がして遠くにやり、


「……あぁ、つまらないな」


 暑苦しい、と呟いて彼はフードを脱ぎ、整った顔立ちに眼鏡をかけた素顔を晒した。


 そして拳銃を仕舞おうとした時、


「……なら、私が面白くしてあげようか?」

 


 突然聞こえた男の声に驚き、振り向くと、スタンガンを構えた男が立っていた。


 仕舞いかけていた拳銃を取り出して相手に向けたものの、どこかからの狙撃で拳銃を弾き飛ばされてしまう。

 しかもそれはゴム弾で、相手は極力自分を傷つけないようにしているのだと気づいた。

 つまり、殺す気がない――――どこかに連れ去るのが目的か。


 撃たれた左手がじんと痺れた。


 ちっ、と舌打ちをしてから相手にスタンガンを当てる隙を与えない為に後ろに跳び、距離を取ろうと――した。


 しかし、その位置に跳んで来るのがまるで分かっていたかのようにもう1人の仲間が控えていて、その人物に受け止められ、地面に口を塞がれた上に体を抑え込まれる。


 直後、少年の体にスタンガンが当てられ、少年は気絶した。


 そして少年を気絶させたは少年を抱き抱えたまま、夜の闇に消えていった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る