第8話 最後の討伐
ここは、前に神主さんの悪夢に入った時と同じ場所だ。いつもとは違う、白い空間。四人は気が付くとそこにいた。
「来れたのか? 悪夢の中に!」
今日はインカムをつけて眠ったのは四人だけ。そしてその四人が、同じところにいる。
「成功だよ! 入って来られたんだ!」
「喜んでる暇ない…。瑠璃が見たっていう、赤い核を探さないと…」
瑠璃は首を振った。右を向き、そして左を向く。
いた。赤い核が宙に浮いている。
「こ、こいつが、その!」
慎治が剣と盾を構えた。忠義もマシンガンの銃口を向ける。最後の戦いが、始まる。
「我ノ正体ニ気ガ付イタカ。許サンゾ人間メ」
それは口もないのにしゃべり始めた。
「我ハ長イ間アノ御神体ト戦ワサレテイタ。我ハ御神体ニハ勝ッタ。ダガ時ヲ同ジクシテ、木箱ノ供養ガ始マッタ。ソノ状態デハアイツノ子孫ト、モウ一人ニシカ悪夢ヲ見セラレン。シカシ愚カナ人間メ。礼ヲ言ウゾ。オ前タチガ木箱ヲ破壊シテ神主ガ供養ヲヤメタ今、我ハ全テノ力ヲ取リ戻シタ。ダガ、オ前タチハ我ノ邪魔ヲスル者。魂ヲ、今ココデ食ッテヤル」
それが言っている意味がよくわからない。だが、怒りは伝わって来た。こいつは、今日、瑠璃たちを殺す気でいる。でも瑠璃たちだって、そのつもりだ。
「覚悟シロ!」
そう言うといきなり赤い核は光線のようなものを放ってきた。
「うわお!」
慎治がそれを盾で受けた。
「な、盾が…」
盾は融けてしまった。あれを喰らえば、終わりだ。
「くっ!」
忠義がマシンガンを撃ちまくる。しかし赤い核は目にも留まらぬスピードで、全弾を避ける。
「そんな馬鹿な!」
光線が弾丸を撃ち尽くした忠義に向かって放たれた。それを一瞬早くジャンプしてかわした。光線の当たった地面は、黒焦げだ。
「はああ!」
紗夜が槍を構えて突っ込んだ。しかし、かわされた。
「今、忠義を見てたはず…」
赤い核に眼はない。今、忠義を見ていたはずだが、同時に紗夜の動きも見ていた? そうとしか考えられない。だとしたら、この悪夢には死角がない!
「愚カ者メ」
赤い核は紗夜に体当たりをした。
「きゃああ…」
突き飛ばされる紗夜。
「危ない!」
瑠璃が紗夜を受け止める。一まず紗夜は大丈夫だが…。
「こ、光線が、来る!」
スイッチを押すべきか。いや押しても起きれない。神主さんの時がそうだった。ならば今回もそのはず。
「危ねえぜ!」
放たれた光線を慎治が剣の刃を盾代わりにしてガードした。一寸でも狂えば直撃だが、慎治はそれでも守ってくれた。
「ありがとう、慎治…」
「うわっと」
紗夜がお礼を言うのと、忠義がそう言うのは同時だった。どうやら跳ね返った光線が、忠義の方へ向かったらしい。
「剣の方は無事?」
「みてえだな。でも、この悪夢は安心できねえぜ」
「みんな、下がって!」
忠義は手榴弾を投げていた。三人はすぐに後ろに下がる。
爆発音がした。
「どうだ?」
目の前には、奴はいない。でも、あれで倒せたとも思えない。
「忠義、しゃがんで…」
紗夜がそう言うと、忠義は意味を瞬時に理解し、しゃがんだ。間一髪、光線は当たらなかった。
「ええい!」
瑠璃が刀を振る。でも避けられる。そしてすかさず紗夜が、慎治が攻撃をしたが、それもまた、避けられたしまった。逃げる赤い核目がけて忠義が弾丸を撃つも、全てかわされる。
駄目だ。こちらの攻撃が、完全に読まれている。現に忠義の顔はもう諦めている。慎治や紗夜だってそうに違いない。でも…。
でも、諦めちゃ駄目だ。ここで悪夢を倒して、みんなを救うんだ。それは、私たちにしかできないんだ!
瑠璃がただ一人、戦う。何度も何度も、刀を振っては避けられる。そして放たれる光線をこちらも避ける。その繰り返し。
「くっ、きりがない!」
「モウ諦メタラドウダ人間ヨ。我ニハ絶対ニ勝テヌ」
そんなわけない! 諦めなければ、諦めなければ、きっと。
「ああ!」
空振りすると同時に、瑠璃は転んでしまった。
「死ネ!」
この至近距離で光線を放ってきた。まだ立ち上がってもいない瑠璃にこれは、避けられるかどうか――紙一重でかわせた。
一旦後ろに下がる。このままじゃ駄目だ。悪夢には勝てない。何か、作戦さえあれば…。そうだ!
瑠璃は動くのをやめた。
それを見ると、奴は光線を放った。
「何やってんだ瑠璃ぃ! 死ぬぞ!」
「当たる…!」
「もう避けられない!」
逆よ。避ける必要がない。この光線を、利用する。
さっき慎治が教えてくれた。刀に当たっても、刀は融けない。そして光線は、反射できる。ならこれでいくしかない!
次の瞬間、瑠璃は刀を盾にし、その刃に光線を受けた。同時に光線は、赤い核へと跳ね返る。
「グオオオオ!」
当たった。作戦成功だ。奴もこれは予想外だったのだろう。
赤い核の動きが一瞬だけ止まった。その一瞬を瑠璃は見逃さなかった。
「はああああああああ!」
刀を思いっきり振り下ろした。
感触もなければ、音もしなかった。
だが確かなのは、赤い核が綺麗に真っ二つに切れた。
「勝ったのか?」
慎治が駆け付け、言った。
「ウググ…嘘ダ。我ガ負ケルハズガナイ…」
二つになった赤い核はうわ言のように繰り返す。そして二、三回瞬くと、消えた。
「やったんだね僕たち、いや瑠璃が!」
「瑠璃…。危なかった…」
紗夜が今にも泣きそうな顔で瑠璃を見ている。
「大丈夫よ、紗夜。私は絶対にできるって思ってた!」
軍配は、悪夢の中で最後まで希望を捨てなかった瑠璃に上がった。
「希望さえ捨てなければ、誰にだって、できるわよ。だから」
瑠璃は続けた。
「だから私に、できたのよ!」
四人は抱き合い、勝利を祝った。
悪夢討伐、完了。
早いものであの戦いから三か月が経つ。二学期も終わって、これから冬休みだ。来週のクリスマスはプレゼント、もらえるのかな。そう思いながら瑠璃は窓の外を見た。雪が降っている。
「お姉ちゃん、ちょっと来て」
璃緒にそう言われると、瑠璃はこたつから抜け出した。
あの後、何日経っても誰も悪夢を見なくなった。ついに、本当の元凶をやっつけたのだ。
夢見神社の御神木は、切り倒された。悪夢の全ての元凶であったこと、神は宿っていないこと、もう力がないことを神主さんが確認したのだ。切り倒しは何の問題もなく終り、本殿の裏には大きな切り株だけが残った。
何も祀るものがないのは問題だ。そう思ったけど、神主さんは大丈夫だと答えてくれた。元々木箱が破壊された時に、新たに御神体を探していて、猟友会からヒグマの提供がされたらしい。これを新たに神として祀っていくそうだ。今度はいい夢が見れますように。そう思って瑠璃たちは荒れた境内をできる限り整えるのを手伝った。雑草は抜いたし、砂利も整えた。本殿の掃除もばっちりだ。
「なあに、璃緒?」
そう言って璃緒の方に行くと、彼女は一万円札を二枚握っていた。
「これで来週は、欲しい物を買えってお父さんが」
ああ、なんだか悲しい。
「そう。中学生って、夢ないのね」
「そんなことないよ。お姉ちゃんは夢を守ったんだよ! すごいことだよ!」
「でもそれは、もう前の話よ。それに、知っている人もごくわずか。全然すごくないよ」
当たり前だが、役目を終えた悪夢討伐団は解散となった。インカムを先生に返した時、達成感や解放感を感じたが、同時にやるせなさも感じた。戦うことに生きがいを感じていたのかもしれない。ただみんなと協力し合うことがなくなるのが嫌だったのかもしれない。確かその時、慎治が詰まらないとか言って、紗夜に怒られたんだっけ。それを忠義と二人で笑っていた。今ではもう、懐かしい。
「今年は、去年よりも積もりそうね」
話題を変えようと思い、窓の方を見ながら言った。
「そしたらさ、またできるかな? 雪合戦」
「できるわよ。そしたらまた、あなたと私のコンビで勝ちましょう」
悪夢の中で 杜都醍醐 @moritodaigo1994
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