第3話 正しい夢
気が付くと、瑠璃は車の中にいた。高速道路らしき道を車が走り、地面の亀裂で時より車が揺れた。
「早く着かないかな!」
璃緒が待ちきれないと言わんばかりに言った。
瑠璃には、この先の展開がわからなかったが、
「早く着くといいね」
と言った。
やがて車は海に到着した。どうやら季節は夏で、家族で海水浴に来たのだった。
車の中で服を脱ぐと、下着の代わりに水着を着ていた。準備は万全だ。鞄からビーチサンダルを取り出し、それを履いて車から出た。
「待ってよ、お姉ちゃん!」
璃緒も続いて出てくる。そして父と母も車から降りた。
砂浜のある一点に、チェック柄のレジャーシートを広げ、母はそこに座り缶ジュースを飲む。父は岩場の方へ釣り具を持って行く。瑠璃と璃緒は、二人で海に向かって走った。
波を足で感じる。今日の気温もあって、心地よい冷たさである。そのまま海の中に入っていくと、不意に顔に水かかかった。
「きゃあ!」
横を見ると、璃緒が笑っている。どうやら彼女の仕業のようだ。
「何するのよ!」
言いながらかけ返す。水しぶきが璃緒にかかる。
「ああ、もう! 髪濡れちゃったじゃない!」
「そっちからやったんでしょ!」
水かけ合戦開始! 二人とも幼い子供のように、バシャバシャと水をかけ合う。もう全身ずぶ濡れである。それでも二人は手を止めない。
「ちょっと、待って、璃緒」
璃緒に聞こえてない。まだ水をかけてくる。
「璃緒ったら!」
そう言うとやっと、手を止めた。
「泳ぎましょう!」
「うん!」
二人は一緒に泳ぎ始めた。あまり遠くに行かないように、数秒に一回足が底に届くか確認しながら泳ぐ。そんなことしてる瑠璃の速さは遅く、あっという間に璃緒に抜かれてしまった。
「あんまりそっちに行くと、危ないわよ!」
「はあい。わかってる!」
璃緒はそう言うと反転し、こっちに向かって泳ぎ始めた。
「ねえ、どちらが長く潜ってられるか、競争しない?」
「いいわよ。負けないから!」
海面をバシャンと叩いて、璃緒が言った。
「せーので、いくよ?」
「うん」
「じゃあ、せーの!」
二人は同時に潜った。五…六…まだ大丈夫。運動は得意でない瑠璃は、肺活量に自信がない。たとえ負けちゃっても、危なくなったらやめよう。
九…十…。そろそろ限界だ。自分は十秒も息を止めていられないのか。十一…十二…十三…。もうこれ以上は無理!
「ぷはぁ!」
瑠璃は海面上に顔を出した。既に璃緒は顔を上げている。私の、勝ち?
「急に思いだし笑いしちゃって。海水飲んじゃった…。しょっぱい…」
「何やってんのよ! 今思い出し笑いなんて!」
「だって、あのお笑い番組の芸人、面白かったから…」
「スギちゃん?」
「そう」
「あの、『ワイルドだろぉ?』ってやつよね?」
全然似てない。自分でも思うくらい似てない。でもそれが逆に璃緒に受ける。
「あははははは!」
彼女は腹を抱えて笑う。自分もなんだかおかしくって、笑う。
「あははっ」
もうお腹が痛い。前に璃緒と一緒に、動画サイトで検索して見てみたっけ?あの動画は腹筋に悪かった。
「もう、その話は、よして。お腹が、あ…」
また思い出したらしく、笑い始めた。
「あはははは!」
瑠璃もつられて笑った。
笑い疲れた二人は一度海から上がり、母の前の砂浜で遊び始めた。
「何作る?」
「まずは山作ろう!」
二人は辺りの砂を集めて山を作り始めた。始めは簡単に大きくなるが、段々と山の成長速度がゆっくりになる。
「あ、そうだ! お姉ちゃん! 横になってよ!」
「え、どういうこと?」
「いいから!」
言われた通りに横になる。すると璃緒は、自分の体に砂をかけ始めた。
「何するのよ?」
「いいからいいから!」
黙って璃緒のすることを見ている。自分の体を砂に埋めてる。彼女はせっせと砂を運ぶ。
「できた!」
「できたの? でも、ここからじゃわからない…」
瑠璃は動けないから、璃緒の作ったものを見ることができなかった。
璃緒が母からデジカメを受け取り、瑠璃の今の姿を撮った。そしてそれを、自分に見せてくれた。
「どう? よくできてるでしょ?」
「ちょっと、これ! 大げさよ! こんなに胸、大きい人いないでしょ!」
「大きくしてあげたのよ。いつもかわいそうだったから」
「かわいそうって何! 自分だって人のこと言えないでしょ!」
瑠璃は全身に力を込めた。砂に埋もれた体を動かすのは難しかったが、なんとか出てこれた。
「せっかく作ったのに…。ああもったいない!」
「大げさに作り過ぎなのよ! もっと自然になるように作ってよ!」
「自然でその胸じゃない?」
「何よ!」
瑠璃は璃緒を追いかける。璃緒が海に入れば、自分も入る。
「えい!」
バシャンと水をかけた。璃緒も反応する。
「きゃああ、冷たい!」
また、水のかけ合いだ。ただ単純に、同じ動作を繰り返す。でも楽しい。
数分して、二人とも手を止めた。そして泳ぎ始めた。
「バタフライって、こうだっけ?」
「う~ん、ちょっと脚の動きが変かな?」
「こう? もう覚えてないよ」
「だから練習するんでしょ! さあ、もう一回!」
「はあい」
もう夕暮れ時だ。海から上がる。父も帰って来た。
「デカいのが釣れたぞ! 今日はごちそうだ」
「わあ、おいしそう!」
洗い場で体を洗い、脚の砂を落とす。髪も念入りに洗う。
そして、四人は車に乗り込んだ帰りの運転は母だった。
今日は楽しかったな。あの魚、どんな料理になるのかな。そんなことを考えていた。
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