第7話 現れた友人たち

「…」

 しかし、何も起こらない。さらに数秒立ったが、本当に何も起きなかった。

「危ないところだった…」

「え?」

 瑠璃は目を開けた。そこにはなんと、紗夜がいた。彼女は槍を持っていて、それがミールワームの頭に刺さっている。なんでここに紗夜が…? 槍なんか持って…?

 頭がパンクしそうになった。

 その後ろで、幼虫が瑠璃に襲いかかろうとしていた。紗夜のことしか目に入っていない瑠璃はそれに気付かない。

 不意に、後ろからドン、と音がした。振り向くと慎治がいて、彼は盾で幼虫の突進を防いだのだった。

「全く、紗夜! お前がちんたらしてっからだぜ? 大事な親友を危険な目に合わせんなよ?」

 そう言うと右手に持った、いかにもゲームに出てくる風な剣を振り、幼虫の右アゴを切り飛ばした。

「やっぱマスターブレードの切れ味は違うぜ!」

 さらに慎治は、その剣を幼虫の額に突き刺した。ブスッという音がした。すると幼虫は動かなくなった。そして剣を抜く。剣に着いた幼虫の体液を見ると、

「うえぇ、汚ねぇなぁ」

 と言った。

「その毛虫、僕がいただくよ!」

 忠義の声がした。彼はミールワームと毛虫の間にいた。その手には、よく戦争映画で出てくる、兵隊が持っているようなマシンガンが握られていた。

「ファイア!」

 忠義が叫ぶと銃の引き金を引いた。ダダダダッという音がする。毛虫に当たると毛虫は、まるで痛いと言わんばかりにうねうね動き、当たった部分の毛は抜け落ちた。

 忠義は撃ち続ける。空になった薬莢が彼の足元にいくつも転がる。

 撃ち終えると、弾倉を取り外し、新しいのに付け替えた。

「おや、もう倒したかな?」

 銃口を向けられた毛虫は体のいたるところから体液を吹き出し続けていた。それと、全く動かない。

「…」

 瑠璃は状況が呑み込めず、声も出ない。

「瑠璃、大丈夫だ。あとはあの青虫だけだ」

 瑠璃の肩をポンと叩いて言ったのは一組の剛。話したことはないけど、喧嘩が強いらしい。その手にはメリケンサックをはめている。

 剛が青虫に向かって殴りかかった。力任せに青虫の顔を殴る。

「…!」

 青虫は無言だが今の一撃が痛かったのか、剛に向かって突っ込んできた。

「うわあ!」

 剛が吹っ飛んだ。

「大丈夫か、剛!」

 慎治が剛に駆け寄る。剛は左腕を押さえている。

「骨折したかもな…痛い」

「お前のオレが敵は討ってやるぜ! こいよ蝶の出来損ない!」

 慎治が青虫のことを煽ったが、青虫はそれに反応していない。瑠璃だけを見ている。

「もらった!」

 そう言ったのは忠義。青虫の体目がけで乱射しまくる。

 ダダダダダダダ…。

 忠義が弾丸を打ち尽くす頃には、青虫は蜂の巣になっていた。


「みんな…。どうしてここに…?」

 やっと声が出せた。でも頭はオーバーヒート寸前。煙を上げている。

「お前、忠義ぃ! オレの獲物、横取りしやがったな!」

「今時剣と盾なんて、ゲームのし過ぎだよ、慎治はそんなので戦ってたの、何世紀前だと思ってるの? 今はコレ!」

「時代遅れとでも言いたいのかぁ!」

「喧嘩なんてしてる場合じゃない。瑠璃に説明しないと…」

 紗夜は瑠璃の方を向いて、

「私たちは、悪夢討伐団。ここは、瑠璃、あなたの悪夢の中…」

 え? 私の、悪夢の中?

 開いた口が塞がらないとはこのことだ。意味がわからない。

「どういう、こと?」

「あなたは今、悪夢を見てた。実際に瑠璃は芋虫、幼い頃から嫌いだよね? だからそれが夢に出てきた。悪夢になって!」

 紗夜、それでも説明不足だよ…。

 ポカーンと下した瑠璃をよそに、忠義が剛のところへ行く。

「…どう? 痛い?」

「ああ、できればよ、その手、やめて欲しいぜ」

「これは完全に…折れてるね」

「やっちまったよ。あれだけ怪我するなって、言われてたのに。でも、利き手じゃなくてよかった。不幸中の幸いってやつか?」

「そうみたいだね。でも、明日部活には出れないよ?」

「まあ、俺は少し休むとするよ。後は任せたぜ?」

「みんな! 殉職した剛に敬礼!」

「おいコラ。勝手に殺すなよ」

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