雷の使い方、間違っていると思います!

焼き魚〜塩効いてます〜

第1話 雷の予感

ぼんやりとしていた頭にチャイムが重く響いた。


「ふぁ~ぁ。…疲れた。さて、帰るか」


授業が終了して、支度を始める。


「いやいや、窿(りゅう)、まだ朝のホームルームが終わったところじゃないか」


立ち上がろうとしたところで、隣に座っている悠真(ゆうま)から突っ込みが入った。


少しあきれ顔で、でもお前らしいよとクスクス笑っている。


「疲れた時点で俺の今日の学校は終わったんだよ」


眠さで半目になりながら、俺は席を立って歩き出す。


急がないと。




あいつがいない間に。




自由の時間を堪能しに行こうと、いざ教室の扉を開けると、






「あらぁ。せっかく私が朝一緒に来てあげたのに、どこにいくのかしら」




その光景を見た瞬間、冷気に冷や汗があふれ出した。


そこには厄神(やくがみ)・・・もとい、屋久守(やくがみ)蓮花(れんか)が艶のある黒い長髪をなびかせながら超絶スマイルで腕を組んで仁王立ちしていた。


そう、なぜかいつも、蓮(れん)はわざわざ自身の家、といっても寺なのだが、そこから学校と反対方向にある俺の家まで迎えに来るのだ。


いや、そんなことよりも、蓮(れん)は


ついさっき、友達である委員会長に会いに行くといって出て行ったはずだ。


「なんで・・・」


「なんでこんなに帰ってくるのが早いかって?ふふ。そんなの、またさぼりに屋上に行こうとしただれかさんのために決まってるじゃない。何か文句ある?」


「いえ・・・」


こわいよ。目が笑ってないからね?屋久守さん。




風紀副委員長である蓮は寺の娘であるからなのか、そういう性格なのかはわからないが、校則違反に関してはみちゃくちゃ厳しい。


なのに、凛とした姿と端正な顔立ちのうえに面倒見がいいので、後輩たちや同級生から絶大的人気を誇っている。


「ははっ。朝から仲いいな。お前ら」


これをどう見たら仲がよさそうに見えるんだ。


あきらめモードの俺の視線の先で、でかい口を開けて笑っているのは最前列の席に座っている、遠藤康介(えんどうこうすけ)、通称コウ。


スポーツマンで、そのことは体格を見ただけでわかるほどに鍛え上げているボクシング部。


いつも笑っているが、細目のせいでイカツく見える。実際、目を開けているのかいないのか、わからない。


冬だというのに半袖という季節外れ感満載の奴だ。


しかも、185㎝という長身なのでめちゃくちゃ目立つ。


常に楽観的に物事を考えているせいか、何事も楽しそうに見えるらしい。


「べ、べつに、仲がいいわけじゃないわよ!窿太郎りゅうたろうがいつもバカみたいにボケっとしているから面倒を見てやっているだけよ!」


・・・。えーっと、うん。けなされているかどうかは考えないようにしよう。


とにかく、


「蓮、顔赤くなってるけど大丈夫か?」


「!!?なな、なんともないわよ!ただ単に熱いだけ!」


といっても今は冬なので古校舎であるこの教室はむしろ寒いはずだけど・・・(コウを除いて)。


本当に顔が赤いので、少し心配になりつつ顔を覗き込むと、後ろに飛び跳ねていった。


そんなに拒絶しなくてもいいだろうに。ちょい傷つく・・・。


「そうか」


何も考えてない風にあくびをしながら返事を返すと、


蓮は恨めしそうにこちらを睨んでいた。


・・・なぜに?


すると、後ろからクスクス笑い声が聞こえた。


振り返ると、いつの間にかニタニタ笑っている春瀬(はるせ)がいた。


「素直じゃないですよね~、ほんっと」


人をおちょくることに関しては天才的な春瀬鳴海(はるせなるみ)は蓮のほうに視線を向けていた。


「でも、天野っちも心配するなんて、優しいですね~。くーちゃんのこと好きなんですか?」


ハーフである鳴海は西洋人形のように蒼くて丸い目をくりっとこっちに向ける。


くーちゃんとは蓮のことだ。女子のニックネームのセンスはいまいちわからん。


「えっ!?ちょっ」


「そうだよな。俺も窿は蓮花に対して優しすぎると思う。」


「はっ?あぇっ!?」


「・・・。なんで蓮が慌ててるんだ。」


「うっ。そ、そんなことないから。そんなことないから!」


なんで二回行ったんだろう。


顔をさらに真っ赤にした蓮はうつむいてしまった。


「お前ら、おちょくりすぎだぞ」


「え~。まぁ、面白かったからいいです」


「そうだな~」


「変なところで共感するんじゃない」


いろいろ疲れてため息がでてしまった。


静かなところで寝たい。


「でもさ、窿が心配性なのは気になるよな。授業はさぼってるくせに他人の顔色はスゲー気にかけてくれるし。」


「あー。それは・・・」


言葉に詰まった俺を不思議そうに見つめる三人。


そんなとき、


「おーい、そろそろ授業始まるから、みんな座ったほうがいいんじゃないかな」


助け舟を出してくれたのは、クラス委員長の平野悠真(ひらのゆうま)だ。


その言葉の直後にチャイムが教室中に響いた。三人は俺の言葉の続きを聞きたそうにしていたが、慌てて席に着いた。


「助かった。ありがとう」


「ん?俺は授業が始まりそうなことを知らせただけだけど?」


俺はキョトンとした後、静かに笑う悠真につられて口元を緩めた。


悠真は俺の幼馴染みで、家が近いということもあって昔からよく遊んでいた。


少しキツイしゃべり方をするが、他人が困っているとすぐに助けにいったり、さりげなく話題をはずしたりしてくれる気のきくヤツだ。さっきみたいに。


しかも、イケメン。爽やかイケメンというヤツだ。なのでモテる。


この前のバレンタインデーなんか、女子のこいつに対するアピールがとてつもなかったので、こいつと一緒に行動するときは半径1メートルは近づかないと決めたのだ。


ちなみに、俺は、チョコは嫌いだ。


いや、別に、もらえなかったから拗すねてるとかじゃないですよ?うん。


教室の扉が開かれ、先生が大股で教卓へ向かった。


「えー。さきほど、大雨洪水警報と強風警報がでましまので、お前ら今から帰宅準備をしろー」


開口一番で帰宅指示。


みんな一斉に窓の外を見た。


すると、朝は晴天だったはずなのに、


今は灰色の厚雲が空全体を覆っていた。風の流れもはやく、所々では電気が走っていた。


予想外の出来事に、全員驚いていたが、帰れるとなると教室は歓喜の声で埋め尽くされた。


「うるさっ」


そういう俺も嬉しかった。


そんな俺の満面の笑みを見て、悠真と春瀬、コウは笑い、蓮は呆れていた。


俺はウキウキで赤いマフラーを首に巻いた。


ふと窓の外を見ると、巨大な蛇のように、なめらかに、音もなく黒い雲の周りをうねっている雷を見つけた。雷ってあんな風だったっけ。


そんな疑問は友達の呼び声で消えた。




皆が下校した教室は、雷による断続的な光が照らす以外暗く、朝のざわめきや廊下を走る音が響いていたのも嘘のように静かで、その空間に取り残されたように悲しげだった。




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