番外編25 ドキドキワルトラカート②
「まさかあそこまで仲間を揃えて魔神シンを撃破するなんて……やっぱりゲーマーとしての才能は本物だね。カイリ・アクワレル」
「お陰で昨日から徹夜だけどな」
目の下を黒くしながら答えるカイリは、「格闘家ノアを仲間にした直後、三度目の戦士アキュラス戦に突入した時は流石に焦ったけど……僧侶ソラシアの回復呪文レベルが高くて助かったぜ」と激戦を振り返るように瞳を閉じて頷く。法也も「確かにあの流れは最高だったよね! 漫画みたいな展開だったからボクも手に汗握っちゃった」と興奮冷めやらぬ様子で熱く語っていた。
「あれは完成度が高すぎて改善点は特にないな。二周目とかのやり込み要素があるといいかもしれないけど」
「あるよ、二周目要素」
「マジかよ!」
その言葉を聞いたカイリは、キラキラと目を輝かせて顔を上げる。法也曰く、二周目以降である条件を満たせばとある銃士を仲間にできるらしい。しかし、条件はかなりシビアなようだが。
他にも隠しダンジョンの追加やラスボスの形態変化、闘技場の解放等――“ワルトラクエスト”はやり込み要素も豊富だ。カイリは「後で二周目始めなきゃ」と固く決意するのだった。
「早く二周目を始めたいとこだが――とりあえず最後の一個をクリアしてからだな」
「あっ、遂に“ドキサバ”始める? あれは神様とボクの自信作だよ」
待ってましたと言わんばかりに笑いかける法也の隣では、シンが「これは私も少し楽しくなってな。張り切って皆に取材をしたぞ」と鼻を高くしている。確かに、以前シンから“変な質問”をされていたと思い出しながらも、カイリは「んじゃ楽しみだな」と言ってコントローラーを握り直した。
画面にはおどろおどろしい雰囲気を背景に、血を彷彿とさせるような赤い文字で“ドキドキサバイバル”と表示されている。恐らくホラーゲームだろう。特に戸惑いもなくスタートボタンを押してニューゲームを選択すると、いきなり画面が暗転した。
そして現れた文字は――。
“あなたの性別は? ▽男 女 秘密”
「へえ、ホラーなのに性別も選べるのか。でも秘密って何だ?」
「性別によってサポートキャラが変わるよ。まあ、とりあえず最初は男にしてみれば?」
「私のオススメは秘密だが」
ひとまず参考にならなそうなシンの意見は却下して、法也の助言に従う事にしたカイリは性別を男で開始した。するとスタート画面から一転、場面は明るい雰囲気の学校の背景へ切り替わる。そこはカイリにとっても見覚えがある景色だった。
「これ、陸見学園?」
「実際に写真を撮って背景にしたんだ。理事長の許可ありだよ」
「って事はここからホラー展開が始まるのか? サバイバルだから夜の校舎に閉じ込められる、とか――」
そんな推測を呟きながらカイリはゲームを進めるのだが、次第に眉間に皺が寄っていく。
どうやら主人公は家の都合で陸見学園の転入する事になった男子生徒らしく、太一的なキャラクターがこの学校の事を説明してくれている。暫く会話を眺めていたが、チャイムが鳴って授業が始まり――唐突に選択肢が出てきた。
それはまるで――。
“あ、少女が目を輝かせている”
“なんだか熱い視線を感じる……”
“何故あの子は授業中にアイスを食べているんだろう?”
“何もしない”
カイリはそっとコントローラーを置き、楽しそうに笑っているシンと法也に対して静かにツッコミを入れる。
「何でいきなりシミュレーション?」
「二次元は裏切らない。恋愛シミュレーションゲームっていいよね」
「な? 面白いだろ?」
「面白くねえよ! 第一知り合いを落とすとかアウトだろ! これからあいつ等に会った時に絶対変な気分になる!」
カイリはシンの首を絞めながらガタガタと揺らすと、シンは苦しそうな表情で「ま、待て! カイリはこのゲームの趣旨を誤解している!」と必死に訴えた。その言葉を聞いてカイリはシンを解放して説明を求めると、シンはごほごほと咳をしながら続ける。
「こ、このゲームは恋愛シミュレーションゲームではない。ドキドキサバイバルゲームだ」
「……まあ、確かにスタート画面はホラー系かと思ったけど」
「試しにゲームを進めてみればわかる。最終的な目標はキャラクターを落として恋愛する事ではなく、キャラクターを落として友達になる事だ」
カイリは渋々という態度で再びコントローラーを握り、とりあえず適当に一番上の選択肢を決定した。するとソラシア的なキャラクターが表示され、なんだかんだで昼休みを一緒に過ごす事になった。無意識にソラシアと接している普段の様子を想定しながら、更に適当に選択肢を選び続けると、転校七日目の時に何故か夜の校舎へ行く流れになっていた。
「七日目か。まあ初見にしては頑張った方だな」
「直前の選択肢と好感度を上げる相手を間違えちゃったね。あの場合は“和菓子”が正解だよ」
「どういう事だ?」
そして夜の校舎から脱出しようとした主人公は、焦って階段から足を踏み外し――画面には真っ赤な文字で“GAMEOVER”と示されている。
“その後、彼はこの世界から姿を消した――”
「つまりカイリ・アクワレルの初回プレイはバッドエンドでしたって事」
「何も考えずにやった私は三日目でアウトだったから現状の最高記録だな!」
「理不尽だろこんなの!」
「一昔前は理不尽なくらい難しいゲームばっかりだったじゃないか」
「それはそうだけど!」
カイリは「こんなの死にゲーだ!」と呆れつつ、何故か悔しかったので再度ニューゲームをスタートする。心の内で「決して展開が気になるからとかそんな訳ではなく、クリアできないという事が悔しいからだ」と自分に言い聞かせながら。
最終的に、ソラシア的なキャラクターを落として友達になるまで、カイリでも二時間を要した。
「くっ……三度事故死して二度謎の黒い人物に暗殺された……心が折れそうだ……」
「でもアントランさんは男の子モードで一番優しい難易度だよ」
「マジかよ、嘘だろ……」
どうやら主人公を男にした場合、優しい順にソラシア、刹那、京羅、氷華らしい。試しに最難関の氷華を意識しつつ始めてみたら、何と初日に謎の黒い人物に暗殺されてしまった。
「俺でもこれは無理だ。付き合いの長い太一とか、心理戦が得意そうなディアガルドとかに任せよう……」
「そこまで持って行くのも難関だから普通にヒント教えると、水無月さんの場合は普通に落とすんじゃ駄目だよ。落とし穴に落とすのが正解」
「えっ、そういう系なのかよ!?」
「ちなみに私を攻略したい場合は仮面を落とすのが正解だぞ」
一番優しいキャラ以外は、案外そういう系らしい。ちなみに主人公を女にした場合、一番優しいのはスティールだそうで――試しにカイリを意識しながら女主人公で始めてみたら、最終的に“血を落とす”選択でクリアできた。
「これは一人じゃ無理だし、それ以前に一人じゃやりたくない……」
「カイリがゲームに対して嫌がるのは初めてだな」
「流石に自分で自分を落とすのは気がおかしくなるって」
画面に表示されたギャラリーモードで、グッドエンディングの三倍はありそうなバッドエンディングの項目を見ながら、カイリは半眼で「これは、マジで……ホラーだな……」と言って瞳を閉じる。そのまま徹夜の疲れから意識を飛ばすように寝てしまったカイリの寝顔を眺め、法也は「うーん、“ドキサバ”はちょっと改良の余地があるかも」と言いながら笑っていた。
「キャラクターのモデルか?」
「ううん。ボクのキャラクターの難易度をちょっと下げようかなって」
法也はパソコンの電源を落とし、楽しそうに口元を吊り上げる。
「誰かと一緒にゲームするの、結構楽しかったから。ボクを落として友達になる条件、“電源を落とす”くらいに下げようかなって思ってね」
そのままパソコンを携えながら、法也は「ノアくんとか明亜たちにも感想もらってくる!」と言って駆け出した。
取り残されたシンはくすりと微笑みながら「友人を増やしたいと願っていた法也に、カイリはゲーム好きと助言して正解だったな」と呟く。
「さて、私もこのゲームデータを土産に友人の元を訪ねてみるか」
そして返ってくるであろう反応を想像し、シンは少し苦笑いを浮かべながら姿を消した。
ちなみにこの日から数日間、カイリは“ドキサバ”の悪夢を見る事になったらしい――。
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