電子魔術の夜-タブレットマギウス-

第3話 情報

　とりあえず、と彼女が向かったのは少女が攫われたという場所だった。

　そこは住宅街にある小さな公園だった。

　ユラは小さなブランコに座ると、タブレットを起動した。

　画面に表示されたアイコンから一つを選び、タップする。

　画面に今回の依頼の内容をまとめたファイルが表示された。

　詳細はテンカが話した内容と相違なく、新たな情報といえば監禁されているという少女の写真くらいだった。

　十八歳にしては大人びた容姿の、長身の少女だった。

　その顔つきに妙な既視感を覚えたユラは、検索アプリを起動し、写真を画像検索した。

　検索中の表示から数分経った後に出た結果を見て、ユラははっきりと思い出した。

「モノカ・レイジョウ、芸名モリコ、アイドルグループ【プリフェス】の元リーダー…」

　ユラは芸能人に詳しくはないが、彼女の事はよく覚えていた。

　プリフェスは五年前に結成されたアイドルグループで、派手なパフォーマンスが特徴の人気グループであった。

　モリコ…モノカはリーダーとしてグループの中心になり活動していたが、三年前に脱退し、テレビ番組やイベントに出演することもなくなった。

　そうか彼女が…とユラは思いを巡らせた。

　かつての人気アイドルが誘拐されたとなれば、マスコミも黙っていないだろう。

　ニュースになっていてもおかしくはないのだが、そこは芸能事務所 が公表していないのであろう。

　側にいた母親が誘拐を止めなかったのは疑問だが、犯人の正体は何となく予測出来る。

　犯人は彼女のファンかはたまたアンチか、恐らくはその辺りだろうとユラは考えた。

　納得したところでふと別の検索結果に気付いた。

　まだ何かあるのかと画面をタップして、その次に表示された検索結果に、ユラは驚愕した。

「モノカ・レイジョウ、十八歳、指定暴力団体【蓮華会】現組長…組長…！？」

　ユラは驚いてタブレットを凝視した。

　蓮華会…この国では有名な組で、財界との繋がりもあるという大きな組織である。

　主な活動は賭場だが、違法電書魔術の密売も行なっていると書かれていた。

　三年前に前組長が亡くなり、モノカが跡を継いだらしい。

　三年前といえばモノカがグループを脱退した時期と重なる。

　アイドルを辞めた彼女は暴力団の組長になっていた…ユラはそれが本当の事だと信じられなかった。

　タブレットを夢中で操るユラは、背後に近づく気配に気付かなかった。

　気付いて振り向いた時にはもう大きな手に抑え込まれていた。

　事務所でパソコンに向かっていたテンカはあ、と声を出した。

「今回の依頼、ヤクザに気を付けろって言うの忘れてた…」

　テンカはスマホを取り出すと、ユラに電話をした。

　しかし彼女は電話口に出ず、コール音だけが聞こえてきた。

　テンカは諦めてスマホを置くと、不安な気持ちを抱きながら天井を見上げることしか出来なかった。