なすのにびたし

尾状 花序

ピーマン


 私が食べ物の話をする上で、避けては通れないもの、それがピーマンである。


 私はピーマンが嫌いだ。


 嫌いなものを聞かれて「戦争と体育とピーマン」と答えていたほどだ。戦争と同列である。あり得ない。今考えるとふざけている。


 まず、においが好かない。社食でピーマンの入ったメニューがある日は、においだけで分かる。さらに、そのにおいは移るのである。

 スタッフドピーマンが嫌だという話をした際、

「中身のハンバーグだけ食べれば良いじやないか」

と、言われたことがある。てんで分かっていない。ピーマンに詰められたハンバーグには、しっかりとピーマンのにおいが移っている。ピーマン風味のピーマンよりも、ピーマン風味のハンバーグの方が、ハンバーグだけに悔しい。風味さえなければ、大好きなハンバーグなのだから。


 味も口に合わない。なんか苦い。コーヒーもビールも大好きであるが、ピーマンは苦い。あのなんとも言えぬ苦味のせいで、ピーマンのみならずパプリカやししとうも同様に苦手である。逆に言えば、それ以外苦手な食べ物はほとんどない。


 ピーマンが嫌いという話をすると、大抵「子供だね」と言われる。子供で何が悪い。ピーマンを食べるくらいなら、私は一生子供で良いのだ。

 そして驚くのは、子供の頃周りにたくさんいたはずのピーマン嫌いが、年をとるにつれどんどん減っている。嫌いな食べ物ランキング上位の常連だったはずだ。それが今や、ピーマンの食べられない大人にほとんど出会ったことがない。


 話はそれるが、私の父は私が幼い頃から「どれだけ嫌いなものでも100回食べれば平気になる」

が口癖であった。しかし、これは嘘である。24歳になった私は、不慮の事故(刻まれたピーマンに気づかなかった)や避けられぬ空間(高級なフレンチに添えられたパプリカ)により、ゆうに口にした回数は100を超えている。


 それでも一向に克服する気配のない私を横目に、かつて共に反・ピーマン派として戦った弟はおいしそうに青椒肉絲を食べるのであった。

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