第4話 妄想(上)
両手を頭の後ろに組まされて、独房のドアが並ぶ廊下を歩く。
どうやら独房の住人は、今のところ俺しかいないらしい。
もっとも、住人がいたところでどうせ他国のスパイ共だ。
なれ合う義理も協力して脱走する義務もない。
向かう先は尋問室という名の拷問室。
廊下の天井には、一定間隔で丸い突起物が見える。
姿形、大きさは、ちょうどサッカーボールを半分に切った感じか。
俺の後ろには美人将校がビームガンを背中に突きつけながら、勝ち誇ったように俺の背中に向けて声を放つ。
「馬鹿な考えはしない事ね。我がN国が誇る最新警備システム、その名も
『
「知ってるさ。天の眼に登録されていない人間は問答無用で蜂の巣。内部の人間でも、平常時の心拍数からアドレナリンの分泌量、神経シナプスまで登録し、その乱れをキャッチすると、警告、電気ショックを与える、内乱防止にも効果のあるシステム。正にお天道様には逆らえないってことだな」
「そういうこと、ここで私のビームガンを奪っても、平常時に登録した
『ウニチャーム、スイート極薄々スリムタイプ。セクシー下着の貴女にピッタリ! 税抜き¥298』
の肉体や神経の乱れに反応して、天の眼がしかるべき処置を行ってくれるわ。せいぜい平常心を
いい加減覚えたのなら、俺のことを”おまえ”、”あんた”呼ばわりでもいいんだが……。
とはいうものの、このまま言われっぱなしは性に合わない。一つ、からかうとするか。
「天の眼に四六時中監視されてちゃ、オフィスラブ、いや、情報部だからインテリ・ラブってか? おちおち隠れて逢い引きもでき……」
すぐさま、背中に押しつけられるビームガンの銃口!
「馬鹿な考えは……って私言ったわよね? 今日の朝食から口ではなく、お腹から直接食べる羽目になるけどいいかしら?」
「イエッサー!
久々に味わう緊張感!
『メルトダウン』と呼ばれる、手当たり次第酒をぶち込んだカクテルを飲んだあとよりも冷や汗が出るぜ。
しかし、スパイにとってこれぐらいの緊張感、ブラックペッパーをかじった程度だ。
ビームガンの銃口を突きつけられて、ようやく俺の魂は朝のお目覚めとなった。
全く、スパイってのはめんどくさい商売だぜ。
言い忘れていたがこの美人将校、この若さで少佐殿である。
士官学校を次席かその次かその次ぐらいで卒業し、情報部で一年何事もなく過ごして中尉に昇進し、特殊情報部に異動となったところで、俺様がこいつにとっ捕まってしまったのである。
その功績で一気に二階級特進したのだが、そのいきさつは後日話すことにする。
ゆっくりと俺の背中から離されるビームガンの銃口。
どうやら機嫌を直してくれそうだ。
「あんたは一応囚人扱いだけど、これでもVIP待遇で扱っているのよ。手錠や鎖つき鉄球で拘束していないし、食事もあたし達が食べる大量生産のレーションじゃなく、”手作り”だし、なにより才色兼備のこの私が監視役と尋問係を任されているからね。ありがたく思いなさい」
話している内容はどうでもいいことだが、ようやくあの変な名前で呼ぶことはなくなったな。
ひとまず安堵の息を漏らすことにしよう。
「こ、これでもね、あ、あんたのことをね、ちょっとは考えているのよ。ほ、ほら、男の人って、その、いろいろと”
なんだか話のベクトルがずれ始めているが、下手に口を挟むといろいろとめんどくさくなりそうだ。
「ス、スカートだって
こいつは一体何を言っているんだ?
そもそもてめえのスカートの長さなんてどうでも……。
「あ! 今! 私のスカートの長さなんてどうでもいいって考えていたでしょ!」
おいおい、今度は読心術か? てめえは特殊情報部より外交官にでもなった方が……。
「そうよね、男なんて、スカートよりも、”スカートの中身”の方に全神経を向けているケダモノだからね~。あ~怖い怖い。私なんてあんたの妄想の中で、何回陵辱されたことか……」
否定はしない。
しかし、それはあくまで緊急避難措置だ。
例えるならジャングルの中で芋虫を食し、泥水をすすって飢えと渇きをしのぐようなものだ。
てかさっき、限界までスカートを短くして”攻めている”って言ってたよな。
俺をケダモノ扱いしながら、話が全くつながっていないんだが?
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