第31話 恐怖は原動力。

 地面の硬く冷たい感触が、おでこを通して伝わってくる。


 おでこに自分以外の何かが触れることなど、幼少期に熱が出た時、母親が体温を計るために手や母親自身のおでこを当てる以外にはなかったのでとても新鮮だった。


 しかし、この経験が女の子のおでこなどではなく、冷たい地面で、しかも土下座をしているからだという理由なのは斬新というか残念だ。



「えぇ……。私から言っておきながらだけど本当にするなんて……。貴方、プライドとかないの?」


「こ、これが俺のプライドです!」


 やる時はやる。

 これが男、春日井のプライドなのだ。


「気持ち悪いわね。もういいわ、貴方みたいなのと関わりたくないから許してあげる。だから早く消えなさい。」



「は、はいぃ!」


 最後まで酷い女だ。


 言われなくてもこちらから消えてやるわ!



 なんて強がりながら走って逃げ出すと、背後から

「何度も言わせないで!廊下は走る場所じゃないでしょ!」と、聞こえてきた。


 振り向く勇気も足を止める強さもなかったが、足を止めない理由はあった。


 それはもちろん、怖いから。


 恐怖に勝る原動力というのは中々ないものだろう。


 つまり、これから教室に戻ることもできないというわけだ。



 非常に困った。


 お弁当、教室においたままだ……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る