第4話 初めてのキス。
教室の前に着いたときには既に、クラスメイト達が体育館から戻ってきていた。
この学校は3年間クラス替えがない。担任も、辞めない限り変わらないシステムだ。ゆえに教室の場所も変わらない。
なので新学期でも教室を間違える心配はなく、堂々とドアを開けることができた。
一瞬、クラス中が静まり、ほとんどの人が開いたドアの方を見た。が、すぐに賑わいを取り戻し、いつも通りの状態になった。
本当にいつも通り。いつも通りのグループで話すクラスメイト達。いつも通りの声のボリュームで話すクラスメイト達。いつも通り挨拶すらしてくれないクラスメイト達。
いつも通りの教室をいつも通りのルートでいつも通りの自分の席へと向かって歩いた。
その途中、ようやくいつも通りでないことに気づく。
自分の席の隣に知らない女の子が座っている。
見たことのない顔で見たことのない制服を着ている。
そんな異常に対して、あまり違和感を感じなかったのはきっと、既にこの子が転校生であることに気づいていたからだろう。
転校生。それは恋愛ゲームなどにおいて重要な位置にいる存在だ。
もちろん恋愛ゲームに限ったことじゃないが、今回の転校生は女の子。これは恋愛ゲームさながら、
「会いたかったですわ~!」と抱きついてキスをしてくるタイプの転校生だろう。
急いで鞄を机に掛け、彼女の方を向く。
大丈夫だよ。受け止める準備と、ファーストキスを捧げる覚悟はもうできているから。
しかし彼女はこの気持ちに気づいてはくれなかった。それどころか目も合わなかった。
それもそのはず。転校初日の転校生を周りのクラスメイトが放っとくわけもなく、彼女は前の席の女子達と楽しそうに会話をしていた。
期待していた分、口の中が一気に寂しくなった。
さっきもらったばかりの飴を取り出し、寂しがっている口の中に入れる。美味しすぎて一瞬で幸せな気持ちになれた。
ある程度舐め、苺の味が口いっぱいに広がった頃に、ある言葉を思い出した。
「ファーストキスは苺の味」
これはつまり、口の中が苺の味でいっぱいの今、キスをしているようなものなのだろうか。いや、そうなのだろう。これはキスだ。
そう思い聞かせることで、なんの変哲もないの苺の飴が特別なものに感じた。
ただ、そんなことより虚しさの方が強かった。
飴ではなくマシュマロのような柔らかい物だったら、もう少し楽しめたのか。
そんなくだらないことを考えながら舐める飴はやっぱり、ただの苺の飴だった。
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