第3話 保健室の女神。

 まだ雨は止まない。しかし、心は病んでいる。



 ひとまず職員室へ行き、事情を話すと、

「まずはその濡れた服を着替えなさい。」と、保健室に連れていかれた。


 カーテンを壁にし簡易な個室を作った先生は、ジャージの置き場所だけ言い残し、職員室へと戻っていった。


 ジャージのサイズを確かめ、着替えを始めると、ガラガラと扉の開く音が聞こえた。


「…ん?誰かいるのか?」


 この女性らしからぬ話し方はきっと、保健室の先生だろう。


「あ、はい…。制服が濡れたので着替えさせてもらってます。」


「あぁなるほど。どうせ急いで着替えても始業式には間に合わないだろうし、ゆっくり着替えるといい。」


「ありがとうございます…。」



 保健室の先生こと『緑川みどりかわ かおり』先生と直接話すのは初めてだったので、少しだけ緊張してしまった。



 お言葉に甘えて、ゆっくりと着替えをしている間に、こうなってしまった説明と世間話をした。


「君は本当についてないな!」

 そう言って笑う先生は、最初のイメージよりどこか女性らしいと思えた。



 ようやく着替えも終わり、体が軽くなったところで、壁になっていたカーテンを開ける。

 すると目の前に足を組んで座っている緑川先生が現れた。


 緑川先生は若干の笑顔でこちらを見ていた。



 これは、よく考えなくてもわかる。この状況はまさに保健室イベントそのものだ。

 始業式をサボる男子高校生と保健室の女先生。これは恋が発生するのでは?


 と期待するのだが、もちろんそんなことが起きるはずもなく。

「そろそろ始業式も終わりだな。さぁ、教室へ戻ろうか。」という緑川先生の一言で楽しい時間も終わりとなった。



 しぶしぶ教室へ向かおうとすると、緑川先生が、頑張れよ!と苺の飴をくれた。嬉しい。

 お礼を言い廊下へ出た。なんだか足取りが軽い気がしていた。


 もらった飴を握り、嬉しさのせいか少しだけ輝いている目で窓の外を見た。



 まだ雨は止まない。しかし、心は晴れていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る