第546話 夕食会プラスワン
その日の夜、
いつかのように「青い目の者らで」という縛りではなく、あの時の面子に加えて
宇が友仁のもとへ押しかけているのは、当然沈の耳に入っているだろう。
沈は内緒話をしたいのと、噂の
――苑州の謎の幼大公だったし、そりゃあひと目見たいか。
ちなみに
その席の給仕役として、以前と同じく
――立勇様のお茶は美味しいし、給仕も完璧だったもんね!
納得の人選に雨妹がなんだか自分のことにように得意になっていると、立勇からジト目を向けられてしまう。
なにはともあれ、時間になって沈の私室へ向かった。
招き入れられると、まず宇が一人沈の前へ進み出る。
「ご挨拶が遅れてしまい、申し訳ございませぬ。何宇です」
「なるほど、何家であることを疑いようもなく、美しいな」
優雅に挨拶して見せる宇に、沈が感心の声を上げる。
確かに、宇は美しい容姿をしている。
その己の美しさをわかっていて振舞っているから、余計に魅力的に見えるのだろう。
「ふふ、お世辞が上手いことです」
恥じらうように微笑んで見せる宇に、雨妹はいっそ感心すると同時に、友仁に悪い見本を見せてはいないかと心配にもなる。
それから皆で卓を囲むと、用意してあった茶器で立勇がお茶を淹れ始める。
そうしてお茶が行き渡り、運び込まれた料理を立勇が給仕し始めたところで。
「問題が解決しつつあることについて、友仁に感謝を言いたい。
想像し得る中でも最上の結果であると思う」
まず沈は、友仁を称えてみせた。
雨妹たちの奮闘は友仁の評価となるので、主が褒められて雨妹も嬉しくなる。
「リフィは、しばらく自主的に謹慎するそうだ。
しばらく己と向き合い、今後を考えたいと言われたよ。
ジャヤンタ殿下も移動に前向きで、林が話を聞いて行先候補を選んでいる。
だが、二人は今後別々の場所で暮らすことには違いない」
そのように語られたリフィとジャヤンタの今後を聞いて、雨妹もそんなところだろうと思う。
二人共一度、閉じこもっていた殻の外を知るといい。
視野が狭いままであると、どこに行ったとて景色は同じに見えるものなのだから。
「誰も悲しまない結果になったのなら、よかったです」
話を聞いた友仁がホッとしたように述べるのに釣られたように、沈が微笑む。
「我も、リフィに酷な処断をせずに済み、安堵しているよ」
「叔父上のやさしさが、リフィを救ったのですね」
叔父と甥でなんだかいい感じに話が纏まったところで、食事を食べ始める。
――結末としては、こんなところだよね。
雨妹にはこの件で、未だ謎なところもある。
しかしここであえて蒸し返さず、謎は謎のままにしておく方がいいだろうか?
そんな風に自分を納得させていると。
「雨妹よ、言いたいことがあるなら言ってみよ」
唐突に、雨妹に話を振られた。
「は?」
雨妹の口から、思わず間抜け声が漏れる。
こちらがせっかく美談として話を締めてもらおうと考えているのに、沈の方から蒸し返されるとは。
給仕の立勇が皿を置きながらトントンと卓を指先で叩くが、これは恐らくは「余計なことを言うな」という合図だろう。
しかし、沈は雨妹をじっと見つめたまま、待ちの体勢である。
そしてこうなっては、この相手は雨妹が語らないと引っ込まないのだということも、もう学習している。
――もう、どうなっても知らないからね!
雨妹は半ばやけになって、口を開く。
「沈殿下、あなたがリフィさんを助けた理由はなんだったのですか?」
そう、沈は得なんてないのに、何故わざわざ面倒なことを引き受けたのか?
雨妹はどうしても、この点が上手く飲み込めないのだ。
崔の方が国の力は強いのだから、所詮丹のいち王子でしかないリフィの兄から助けを求められても、突っぱねることはできたはず。
そして沈は人によって様々な評価があるものの、雨妹自身としては、それほど博愛精神にあふれている人とは思えないのだ。
――だって、ジャヤンタ様をもっと早くに助けようと思えば、できたはずだもの。
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