第536話 世界は変われどテンプレ好きはいるもので
「どこの国も、さして変わらないのですね……」
小さく零すリフィはどうやら、他の国の国主一族はもっと平和的で、良い家族関係であるとでも想像していたようだ。
――それで、私にも「妬まないのか」と聞いたんだろうけれど。
友仁のことも、父母に愛される幸せな子どもだと見えていたのだろう。
けれどリフィに友仁の不幸をことさら吹聴するのもはばかられるし、友仁が去った後に沈から聞く方が良いだろう。
そんなことを考えている雨妹を、リフィが見た。
「あなたの言った通りね、『隣の芝生は青い』のだわ。
そんな芝生を羨んで眺めていたなんて、わたくしも馬鹿なことをしていたのね」
そう述べて自嘲気味に笑うリフィを見て、
「なんだい、その『隣の芝生』っていうのは?」
胡霜が尋ねるので、雨妹はあの時話したように説明する。
「はっはぁ、上手いこと言う奴がいるもんだ。
確かに、同じ肉でも隣の奴が食っている串焼きの方が、肉が大きく見えるのさ」
この胡霜のたとえ話もあるあるだろう。
「そうそう、実際に比べてみると、同じ大きさなんですよね」
「けど仕方ないね、人ってのは欲深い生き物だってことさ」
「ふふっ」
雨妹と胡霜で頷き合っていると、リフィが笑う。
しかし今度の笑いは、嫌なものではなかった。
「それに、高貴な殿方も性格が様々いるのですね。
沈殿下だけが変わり者なのだと思っていたのですが、違うようです。
以前のわたくしが、あまり人と会ってこなかったのが悪いのかしら?」
そのように語るリフィだが、友仁一行にいる身分が高い人たちは性格も様々なのは事実だ。
同じ近衛であっても、
「リフィさんが育ったところは、どんな風だったのですか?」
雨妹が問うと、リフィは少しためらったものの話したい気持ちが勝ったようで、口を開く。
「かつてのわたくしの周囲には、常に目を釣り上げて口荒くしゃべる方々ばかりいたのです。
それが殿方というものだと、わたくしは言い聞かされて育ちました」
このリフィの話に、口を挟んだのは胡霜だった。
「そりゃあ、アレじゃないかい?
丹の偉い男連中で、そういうしゃべり方が流行っているんだろうよ。
ウチの傭兵団にもたまにあるんだけれどね。
『舐められないための会話』っていうのを誰かが言い出して、意気地なしの男なんかが特にその手のものに頼るのさ」
「あぁ~、それあるかも!」
胡霜の意見に、雨妹も大いに納得してしまう。
前世でもそうだったが、人は「○○をやれば上手くいく!」的な方法論に弱いのだ。
この話は、リフィにとって初耳だったようだ。
「まあ、そのようなことも流行なのですね。
わたくしたちが衣服や化粧で流行りの色を気にするようなものでしょうか?」
「そうそう、その程度のものだよ」
前のめりに尋ねるリフィに、胡霜が手をヒラヒラとさせて答える。
すると友仁がふいにクスクスと笑いだした。
「後宮の妃方や女官がみんな同じしゃべり方をするのは、そういうことかぁ。
たまにね、誰がなにを言っているのかわからなくなるの」
後宮の妃嬪や女官たちが同じ化粧・同じ声音・同じ言葉遣いをしているとなると、友仁に区別がつかなくなるのも無理はないと、雨妹は苦笑する。
「流行りとは別に、様式美というものもありますから。
妃としての品良いしゃべり方となると、同じような言葉遣いになるのでしょうね」
「案外本人たちだって、面倒なしゃべり方だと思っているんじゃないかい?」
雨妹が一応言い繕うのに、胡霜が身も蓋もないことを付け加える。
「まあ、あなた達ったら」
リフィはコロコロと笑いつつも、このようないわゆる「女性のおしゃべり」というものをしたことがなかったのか、次第に目を輝かせてくる。
「本当に、男に生まれただけ、ただ裕福な国に生まれただけなのに、それを全て己自身の力だと勘違いしているのです。
それが昔から、本当に腹が立って仕方ありませんでした!」
誰のことを指しているのかということをリフィが声を張って言い切ったその時、どこからか「ガタッ」と物音がした。
「……だそうですよ」
雨妹がそう言いながら音の方を振り向くと、壁に隙間が空き、向こうに立勇と呂に付き添われたジャヤンタが立っていた。
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