第512話 そろそろ話し合いを
それから早速、
ジャヤンタは歩くようになったことで、足のむくみがずいぶんと良くなっている。
けれどまだ少しむくみがあるので、雨妹はジャヤンタに牀で寝てもらい、足をさすっていく。
『屈辱だ』
これにはいつものようにジャヤンタは抵抗を見せたが、
むくみとりの作業を終えると、次にジャヤンタに室内を歩いてもらう。
ジャヤンタは足の腱を痛めているので無理はさせられないが、それでも雨妹が診た初日はちょっと動くだけでも息切れしていたのが、歩行補助のために与えられた杖で身体を支えながらも、部屋の中をウロウロする程度では息切れしなくなっていた。
ジャヤンタ自身がもう寝飽きているので、雨妹たちがいない間も室内をウロウロしているのだろう。
それにずっと半地下に閉じ込められていたので、中庭とはいえ外を眺めることができる窓辺がお気に入りらしく、大抵はそこに椅子を置いて座っているようだ。
窓越しでも日差しに当たるようになったため、それも体調が整う要因だろう。
やはり健康に日光浴は大事だ。
このようにジャヤンタの体調が良くなってくる一方で、問題も出てきていた。
『立場を弁えぬ者ばかりめが、この国の程度が知れる』
今もブチブチと不満を言い続けているジャヤンタの、この態度のことだ。
今の環境に慣れてきたジャヤンタが、
時折訪れる見守り要員の影らに対して、「主に対して不敬である!」と叱責するのだという。
この場にいる影たちの主とは皇帝であるので、この言い様には彼らも内心で憤っていることだろう。
この数日間でジャヤンタの悪態が治らないし、呂曰くむしろ悪化しているそうだ。
日々の生活に余裕ができてくると、それまで意識してはいてもどうすることもできなかった自身への周囲の態度についての不満が、今爆発しているのだろう。
加えてジャヤンタの不満を集めてみると、どうやら彼が王太子であった頃の生活とは、お付きの人はなにをするにも大仰に行為の許しを請い、ひたすら下手に出て接するものであったようだ。
だから雨妹が「はい、失礼しますよ~」という軽い挨拶で行為に入るのが、ジャヤンタにはとてつもない無礼であり、我慢ならないわけだ。
――いやいや、我が国の皇帝陛下でもそんな生活していないって。
過去の皇帝にはそういう生活をしていた人もいたかもしれないが、少なくとも今の皇帝は儀礼的な場以外では、略式の敬い方でよしとしているようだ。
そうでなければ、一日の時間は有限であるというのに、日常生活に時間がかかって仕方がないのだろう。
一方でジャヤンタは、そうして挨拶儀礼に時間をかければかける程に、自身の価値が上っていくと思っている節がある。
雨妹としてはなにをするにもお互いに疲れるのでは? と思ってしまうけれども。
――それにいいかげん、もう王子様生活には戻れないってわかりそうなものなのにね。
それとも明の言う通りジャヤンタは因果が巡るのを恐れ、現状把握を拒否しているのかもしれない。
このジャヤンタの王子扱いを求める態度に付き合っていると、現在
そしてあのダジャルファードを教育した
なにはともあれ、いつまでも今のような生活を保障されていると思われても困るし、いいかげんに現状を認識させる必要がある。
そんなわけで今、歩行運動後のお茶を飲むジャヤンタの卓を挟んだ正面に、普段は離れて座る友仁が座り、笑顔で問いかける。
「今、あなたは単なる一般人なわけですが、今後どのように生きたいですか? 希望の仕事はありますか?」
友仁の質問を呂から通訳されたジャヤンタが、しばしきょとんとした表情をした後で、顔を真っ赤にさせた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます