第503話 リフィも一緒に買い物です

 ――福利厚生に気を配る主とは、素晴らしいよ!


 雨妹ユイメイは可愛い弟の成長にじんわり感動する。

 そしてリフィが一緒なのは、たまたま友仁ユレンに奶茶をご馳走にきてくれたので、雨妹は休暇を過ごすのにお勧めの場所を尋ねたのがきっかけだ。

 雨妹の問いに、「では、わたくしが街をご案内いたしましょうか?」と提案してきた。

 なんでも「ちょうど買い物に出かけようと思っていた」とのことである。

 このリフィのありがたい提案を受け入れ、それで雨妹にはもれなくついてくるお目付け役たる立勇リーヨンと、リフィと一緒に三人で出かけることとなったわけだ。


「行きたい場所はありますか?」


そしてシェンの邸の門前で待ち合わせたリフィに問われれば、雨妹の答えは一択しかない。


「市場に行きたいです!」

「言うと思った」


これを聞いて立勇が呆れと諦めが混ざったようなため息を吐いた。

 だが決して食いしん坊な理由ではないのだ。

 いや、それももちろんあるが、早めに後宮の皆への土産を買いたい。

 というわけで、現在三人で市場見学をしているのである。

 案内役のリフィは朝の混みあう市場を慣れたように進んでいき、迷いのない足取りだった。


「リフィさんは、朝の市場にはよく来るのですか?」


雨妹は意外に思って尋ねる。

 リフィは元姫であり、今は沈の側仕えだ。

 どちらの身分であっても、邸に商人が品物を持ってやってくる身分だろうに。

 この疑問に、リフィがニコリとして答えた。


「市場には、茶葉を買いに来るのです。

 自ら探しに出かけなければ、美味しい茶葉は手に入りませんもの」

「ははぁ」


どうやらリフィのこだわりは茶葉選びから始まるらしい、と感心する雨妹にリフィがさらに語る。


「客人の茶葉の好みは、茶葉の値段とは関係ありませんから。

 邸に卸される茶葉は質が良いのですが、均一に良質であるためか、どれも同じような味になってしまいます。

 それではつまらないと思いませんか?」

「思います!」


熱いリフィの茶葉語りに、雨妹も大いに頷く。

 確かに、美味しいものとは待っていても食べられない、自ら捕まえに行かなければならないのだ。


「それはそうだな」


雨妹だけではなく、立勇も同意してきた。

 お茶を淹れる技術がある人には共感できる話なのだろう。


 ――秀玲シォウリンさんとかも、案外こうやって茶葉を買いに出かけるのかも。


 「飲み物は白湯で十分派」である雨妹にとって、とても高尚な世界を覗き見た気分である。

 そして医局のチェンが珍しいお茶を好むので、彼への土産にここで茶葉をリフィに選んでもらうのもいいかもしれない。

 そんなわけなので、まずは市場で茶葉を扱っている店へ向かうことになった。


「おやリフィ、連れが一緒かい?」


茶箱を並べた露店の店主の中年男が、リフィに尋ねる。


「客人を案内しているのよ」


その店主にリフィは笑顔で返す。


「どうも」


雨妹も店主に笑顔で挨拶をしたところで、色々な茶葉の箱を眺める。

 店主は異国人の風貌をしており、言葉も流暢ではないので、他国の商人なのだろう。

 そうなると、茶葉も他国から運ばれてきたものだと思われた。

 それぞれの箱の上に置いてある見本の茶葉が置いてあり、リフィは茶葉の香りをひとつずつ確かめている。

 リフィや店主から「これは奶茶に合う」「これは口の中をスッキリさせる」などと色々と説明を受け、それを雨妹ではなく立勇が真剣に聞いている。


「あまり香りが強いのも――」

「そういう場合はこちらが――」


立勇とリフィの二人で、茶葉選びが盛り上がっている。


 ――これだけ茶葉があると、選び甲斐があるよね。


 一方でお茶の味に鈍い自覚がある雨妹は、なんとなくの勘で選んでみるにして、アレコレと茶葉を観察していると。


「これなんてどうだい? お茶の色が夕焼け色で綺麗だよ」


店主がある茶葉を勧めてくれた。


「へえ、夕焼け色ですか」


それは味やら香りやらに鈍い雨妹でも、特別感がわかりやすいお茶である。


「お茶は見た目も大事さ。この辺りに咲く花のお茶だよ」


なるほど、こういう地元のお茶っぽいのは、陳が好みそうだ。


「このお茶を包んでください!」

「はいよ」


雨妹はまず一つ選んだが、これ以外にもリフィにお勧めの茶葉を選んでもらい、満足な土産を買うことができた。

 立勇もいくつか買っていたので、あちらもよい土産が手に入ったようだ。

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