第490話 ひらめき雨妹
――これまでは、ジャヤンタ様の面倒をリフィさんが見ていたんだよね?
半地下に隠されていたジャヤンタの世話をしていたのは、リフィだと沈から聞いている。
その世話とは、一体どのようなものだったのか?
それにこんなに世話する者に当たり散らしてくる、正直言って面倒臭い患者を、リフィ一人でなんとかできたのだろうか?
誰かしら別に協力者がいた可能性も捨てきれない。
まあそのあたりのことも、後回しにすることにして。
ジャヤンタを今後どうしたものだろうかと、
怪我で片腕を失い、長い間の寝たきり生活で筋力が激減し、片足が若干不自由となると、回復にはかなりの時間がかかるだろう。
けれど雨妹はジャヤンタの回復にそれほど長く付き合う予定ではない。
それに宮城や百花宮の医者なら、足の腱を痛めたのも回復できるだろうが、このあたりの民間の医者にどれほどのことができるのか、そこが不明だ。
百花宮でも医術と呪術が混同されることがあるが、国によっては、呪術こそが治療であると考えられている可能性もある。
前世でも、他国では呪術が治療行為とされている国があったのだ。
それで腱鞘炎を放置された挙句、変な風に筋肉が固まってしまえば、治すのが余計に困難になってしまう。
となると、確実に健康になるためには、ある程度長距離移動ができるようになれば、回復が見込める場所へ行ってもらうのが適切である。
――けどなぁ、ジャヤンタ様みたいな人を受け入れる場所かぁ……あ!
ここでふと雨妹は、つい今しがた考えた
あの時、潘の回復に一役買った自転車を作った、発明家の男がいるではないか。
彼――
もしくは、既になにかしらを作っている可能性もある。
なにしろ、自転車を不完全ながらも、自力で考え出した男である。
それに移動なら、車椅子があればずいぶんと楽になるだろう。
もしくは立ったままの歩行補助器具があれば、もっと良い。
――それに今なら、佳に
あの
なにしろ前世で高齢になっていたならば、大なり小なりなにがしかの介助用品の御世話になるものだからだ。
宇に手紙を出して胡天に会ってもらえば、なにかしらの良い物が出来上がるかもしれない。
これはなかなかいい案のように思えた雨妹は早速、
「呂さん、佳にいる静静たちに手紙を届けられますか?」
唐突な雨妹の言葉に、呂は目を丸くしながらも答えてくれた。
「
急ぎなら、同行している皇子殿下の従者に届けるのが早いなぁ」
「ああ、あの人か。
なるほど、影の間での秘密のやり取りのような手段があるのだろう。
それはそれで、なんだかワクワクする話であり、興味があるが、今はその興味をぐっと飲み込む。
「雨妹、何家がどうかしたの?」
「いいえ、何家がどうということではなくて、佳にいる人と連絡を取りたいのです。
佳には、潘公主の体力回復に一役買った道具を作った胡天というお人がおりまして。
その人ならばまた介助に役立つ便利なものを作っているのではないかと期待します」
「へぇ、姉上の!」
黄家に降嫁した姉を助け、さらに名前が胡であることで、友仁に親近感を抱かせたようだ。
――っていうか、ジャヤンタ様を佳に行かせるのもアリかも?
なんといっても佳ならジャヤンタを押し付けられる――もとい、受け入れて平和な生活を保障してくれる第三国へと、速やかに出国させることができるではないか。
なんとも素晴らしい思い付きをしてしまった雨妹だが、最後の第三国へ出てもらうことは、沈どころか皇帝との要相談となるだろうし、即座に動く案件でもない。
なので今すべきはやはり、ジャヤンタを少しでも健康体に近付けることだ。
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