第487話 予防線は大事です
「ふむ、顔色はいいな」
そう言ってホッとした様子を見せる
「おかげさまで、ぐっすり寝ましたから」
雨妹は一晩寝れば体力全快であるし、朝日に決意表明したことで気力も十分である。
「あ、そうだ」
ついでに雨妹は、先程の決意を立勇に伝えておくことにした。
「私が昨日疲れたのは、きっとやたら偉い人にばかり囲まれたせいだと思うのです。
皇子やら元王太子やら元姫やら、そういうのはお腹いっぱいですし、元は下っ端掃除係の手に余ります。
患者さんは仕方ないとしても、皇子は
暗に「沈とはできるだけ会いたくない」という主張に、立勇は目を丸くしたものの、神妙な顔をして「そうだな」と同意してくれた。
「沈殿下とのそうした話し合いに応じるのは、本来は同じ皇子である友仁殿下と、そのための人員として配置された
非常事態であったとはいえ、今回お前の役目は医官助手、業務外だな」
「でしょ、でしょう!?」
立勇の言葉に、雨妹はうんうんと大きく頷く。
「友仁殿下も昨日は沈殿下の振る舞いに不快感を覚えていらっしゃったことだし、あの場での口頭で済ませず、胡安殿に頼んで抗議の文を送ってもらおう」
「いいと思います!」
雨妹は立勇の提案に大賛成したところで、友仁の朝の体調伺いをして、友仁の希望で朝食を供にした。
友仁がたまに誰かと食事を共にしたい気分の時に誘われるので、雨妹は「既にお腹いっぱいで入らない」とならないように、常に友仁の食事の後に、自身の食事を済ませるようにしている。
このように朝食を終えて、しばし食休みをしたところで。
「よし、行こう!」
そう言って気合を入れた友仁と共に、雨妹がジャヤンタを訪ねる時間となった。
これには胡安は付いて来ず、代わりにお遣いから戻って来た胡霜が一緒である。
この面子になったのは、事前に
「あまり人手をかけて保護しているように見せると、勘違いさせるかもしれない」
そう述べた呂曰く、なんといってもジャヤンタは、宜で殺されかけて公には既に死んでいる身であり、捨てられた王太子と言える。
それをあまり手厚くもてなし過ぎると、「これはもしや、自分の後ろ盾になるつもりなのか?」という期待を抱いてしまうかもしれない、とのことだった。
事実、昨日はあの後のジャヤンタは、期待をしているような、どこか物欲しそうな目をしていたらしい。
――待遇があからさまに変わったんだから、そりゃあ期待もするか。
雨妹たちの思惑は「とっとと健康になって、とっととここから出て行ってくれ」という意味合いしかないのだが、人は己の良い方に考えるものなのだ。
幸い、ジャヤンタに言うべきことは昨日言ってあるので、もう交渉せずとも良いのだから、胡安が同行する必要はなく、純粋に護衛戦力としてならば胡霜が適切となったのだ。
加えて立勇はなまじ顔見知りのため、ジャヤンタが甘える切っ掛けになるかもしれないため、見えない場所にいてもらう。
こうして、友仁に付いて中に入るのは看護要員としての雨妹と通訳係の呂以外は、
立勇は扉の外を守る係である。
椅子に座ってニコニコとしながら見守る友仁の傍らには、腰にある剣の柄を握る明と、どこからか持ってきた棍を装備している胡霜が控えており、あからさまに圧力をかけていた。
「……」
その二人を警戒するように、ジャヤンタがちらちらと見ている。
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