第469話 先に顔合わせ
そしてここでふと、
「胡霜さんはご家族がいるのですよね?」
尋ねる
「ああ、夫も息子も傭兵団にいるよ。
私がこの仕事を受けている間、二人は別の仕事をしている」
なんと、一家そろって傭兵団で働いているのだという。
「息子さんは、おいくつなので?」
「そうだね、お前さんよりちょいと年上くらいか」
なるほど、では胡霜の息子は年齢的にも傭兵団の新人というわけか。
傭兵一家の暮らしとは、一体どのようなものだろうか? などと想像してみる雨妹であった。
そんなこんなで雨妹と胡霜の会話が弾んでいる間に、離宮の
本来ならば、胡霜の身なりを整えてから目通りとするべきだろうが、まずは先に顔だけ見せておくことにした。
なにかの行き違いで、友仁が他の人物を新しいお付きだと誤解するのを避けるためだ。
友仁の部屋の扉の外を守っていた兵士と立勇が交代してから、胡安が扉を叩く。
「戻りました」
返事を待って胡安が部屋の扉を開けると、中では友仁が
しかもえらくニコニコ笑顔なので、よほど明の話が楽しかったらしい。
「明から、陛下の山賊退治の話を聞いていたんだ」
「それは、貴重な話を伺えましたね」
待っている間のことを教えてくれた友仁に、胡安が微笑ましそうにしている。
どうやら明は待っている時間を潰すのに、皆が大好きな英雄皇帝の昔話をしていたらしい。
しかもあまりドロドロとせず、子ども受けしそうな話題を選んだようだ。
――明様って、子どもに対してそういう気遣いができる人だったのか。
赤ん坊時代の雨妹をスポンと忘れていた男なので、てっきり明はそもそもが子ども嫌いなのかと思っていたのだが、どうやらそういうわけではないらしい。
赤ん坊の頃など記憶にないとはいえ、いつまでも根に持つ雨妹なのである。
「なにか言いたいことがあるなら、言え」
雨妹が心の中で若干貶していることをなんとなく察したのか、明が渋い顔で視線を向けてきた。
「いいえ、なにもございませんとも」
雨妹はすまし顔で受け流すものの、自然とジト目になってしまうのは仕方ないことなのだ。
そんな雨妹と明の攻防はおいておくとして。
「殿下、こちらは我が妹の胡霜でございます」
胡安が紹介すると、胡霜はさっと進み出て、流れるような動きで跪いて礼をとってみせた。
「胡霜と申します、どうぞよろしく」
胡霜は短い髪と頭巾とが無頼の雰囲気を醸し出すものの、こうした仕草に慣れているようで、近衛にも見劣りしない。
「こちらこそ、よろしく頼む」
そんな胡霜に応える友仁が緊張した様子でいるのは、相手がこれまで出会ったことがない人間だからかもしれない。
それにしても、胡安は礼儀がどうのと不安を口にしていたが、今の所十分に礼儀ができているではないか。
――胡霜さんが都に来たのは、そもそも皇族の護衛としてだったっけ。
花の宴に参加する皇族の護衛に無礼者を共に加えていたとなると、その皇族の品位が貶められるのだから、胡霜がいる傭兵団は依頼者の皇族から、それだけ信頼があったというのに他ならない。
なるほど、傭兵とは大きな仕事を請けたいと思えば、ある意味そこいらの兵士よりも、礼儀作法を学ばなければならないのかもしれない。
――なんだ、胡安さんってば心配のし過ぎだよ。
雨妹がそう考えていると。
「この場限りの側仕えとなりますが、心を込めてお仕えしたく思います。
ところで短い間ですが我が主となるお方。花はお好きでございますかな?」
側仕えとしての心づもりを語っていた胡霜が、急に話を変えてきた。
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