第466話 泥沼な一族
「胡家はある時から、旅商人として各地を巡り商品を発掘する者と、一か所に留まり店を守る者とに分かれたのです」
そして胡家はやがて縁を手繰り寄せて、いち商人から宮城に出入りが許される程の名家となった。
そうなったら力を発揮してくるのが、土地に留まり周囲に根回しをすることが得意な、店を守る一族である。
彼らが商売をやめて上流階級然とした生活を送るようになった一方で、旅商人の一族は相変わらずの生活を送った。
「胡家の名を落とす放蕩者たちめが」
そんな旅商人の一族を、名家でありたい一族はいつしかそう貶すようになり、胡家の歴史から祖が旅商人であったことを消してしまおうと画策したのだそうだ。
そして今に至るのが後宮にいるような胡家の人々だそうだ。
旅商人の一族の方はというと、そんな連中の思惑こそを「みっともない」と貶し、どこかに押し込められる生活を良しとしなかった。
そうして互いに貶し合う関係が、今に続いているのだという。
「どこの家も、なにかしら揉めているものなのだな」
胡家の御家事情を聞かされた
その隣で、
――この胡家の構図って、なんか覚えがあるなぁ。
商店などの仕入れ担当と営業担当の戦いが、そんな感じであった気がする。
前世で子どもたちが仕事の話で似たような愚痴を零していたのを、幾度も聞いたことがあったのだ。
仕入れ担当は「私たちが商品を持ってきているから、売れるのだ」と主張するし、営業担当の方も「自分たちが顧客確保に勤しんでいるから、売れるのだ」と主張する。
この両者の主張はどちらも正しいのであって、争うようなことではないのだが、争い出すと答えの出ない泥沼に突っ込んでしまうというわけだ。
雨妹は胡家の泥沼具合に、心の中で「ご愁傷様です」と手を合わせる。
雰囲気が暗くなったのを察したらしい胡安が、「そんなわけで」と話を戻す。
「なので、妹は旅好きな血筋の典型例です。
かくいう私も、仕事で旅をすることは多い」
胡安は崔国内の色々な仕事を確認するため、現地へ赴くことが多いのだそうだ。
胡安がそれを嫌がらないために、同僚よりも多めにそうした仕事を振られるらしい。
「ということは、
ふと思いついた雨妹に、胡安がニコリと笑みを見せた。
「そういうことであるな。
友仁殿下は、正しく胡家の皇子である」
そう語る胡安はどこか誇らしそうだ。
胡家のお偉方から祖に似た皇子が出現したので、胡安としては「ざまぁみろ!」とでも言いたい気持ちなのかもしれない。
それにしても、友仁はてっきりあの父に似たのかと思いきや、ご先祖様から引き継がれた性格だったらしい。
いや、ひょっとしてあの父の遺伝子が、胡家の祖の遺伝子を刺激したのかもしれない。
――父の遺伝子って、なんか強そうだもんね。
三人でそんな会話をしていると、やがて妹がいるらしい場所へとやって来たのだが。
そこには、明らかに目立つ人が一人いた。
見るからに逞しい身体つきをした女性で、短い髪を頭巾で覆っている。
その格好が無頼の輩を連想させるせいだろう、周りから遠巻きにされていた。
しかし当人はそれを気にする風ではなく、荷運びをしているのだ。
――ひょっとして……。
雨妹と同じ想像を立勇も抱いたらしく、なんとなく互いに目を見合わせる。
するとその逞しい女性の方が、雨妹たちの存在に気付く。
「おぅい、
そして兄を意味する呼びかけをしつつ笑顔で大きく手を振ってきたので、やはりあの人が話にあった胡霜であるようだ。
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