第453話 罠に落ちて
実際のところ、丹は宜に旅立って以来一度も帰国しないリフィを心配し、「生きているのか?」と何度も問い合わせをしていたのだという。
リフィが丹に向けての手紙を、配下に書かせるだけで済ませていたのも、丹からの疑いに拍車をかけた。
その状況を宜に利用されたわけだ。
――リフィさん、せめて報連相はちゃんとしておけばよかったのに。
リフィの身から出た錆ともとれるが、そのくらい宜での暮らしが楽し過ぎたのだろうか?
もしくは、宜がリフィを騙しにかかり、容易に連絡を取らせないように仕向けていた可能性もある。
手紙についても、「宜では主自らが筆を執ることを、良く思われません」とでも言っておけば、リフィは「そういうものなのか」と納得したのかもしれない。
一方でこの駆け落ち騒動には、ジャヤンタ側にも思惑があった。
「ジャヤンタ殿下も、リフィを一旦王城の商人たちから離すのは良いことだと考えて、稚拙な駆け落ち話に乗ったのだ」
ところが、これが大事になってしまった。
リフィが王太子誘拐及び殺害罪で、宜から手配されてしまったのである。
「誘拐はいいとして、殺害!?」
いきなり話が飛んで、
「……生きているよね?」
「もちろんです!
ジャヤンタ様にはちゃんと脈があり、息をしているのも確認しておりますとも!」
雨妹はぶんぶんと首を縦に振り、生存を肯定する。
「ジャヤンタ殿下が実際に生きているかどうかはともかくとして、宜は『王太子は死んだ』ということにしたのだよ」
そして沈がそうなった経緯を説明してくる。
ジャヤンタはリフィと共に王都から離れようとしていた際に、丹国人を装った武装集団に襲われたのだという。
商人連合が差し向けたのは間違いないだろうが、相当の手練れを用意していたようで、ジャヤンタはあの怪我を負うことになった。
「商人連合の方が、一枚上手であったようだな」
しかし、ここで商人連合にとっての計算外の偶然が起きる。
ちょうどその頃、様子がおかしいと察した丹の兄王子が、リフィの救出を目的とした部隊を差し向けていた。
襲撃を受けて大怪我を負ったジャヤンタを抱え、呆然とするしかないリフィの下へ、その部隊が駆けつけることができたのだ。
「しかしその者たちがリフィを丹へと連れ帰ろうにも、あちらも混迷を極めて安全ではない。
迷った末に宜を脱出する先にと頼ってきたのが我だ」
こうして、やっと話がこの幡へとつながったわけである。
「リファレイヤからリフィと名を変え、我の下で下働きの異国人として仕えることになった。
実際、異国人の下働きは大勢雇っているので、そうおかしな話ではなかったしな」
さらにはこの面倒を引き受ける対価として、丹から貰ったのがこの邸宅であったのだ。
ボルカなどの邸宅管理の人員も揃いで貰ったので、それなりに良い貰い物であったらしい。
ところでその時、ジャヤンタはリフィとは別の地へと脱出させた――はずだったのだが。
「リフィめが、勝手にジャヤンタ殿下を連れ込んでいたのだよ」
そう語った沈が、眉間に皺を寄せた。
邸宅が元は丹の建物であったが故に隠し通路を良く知っており、沈に隠れて連れ込むのが容易であったのだ。
「供の者が言うには、王女様に泣きつかれて、断れなかったのだとさ」
その時はできるだけ早く避難しなければならない状況でもあり、一旦リフィの我儘を聞いて、まずは動いてもらうことを優先したのだという。
――リフィさん、そんなにジャヤンタさんのことが好きだったのかなぁ?
それか、また別の可能性が雨妹の脳裏に浮かばなくはないものの、それは今考える必要はないことだ。
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