第452話 リファレイヤ王女
「リフィはある意味、いかにも丹の王女らしく育てられた女だ。
王や王子たちの政治の話に口を挟まず、ただただ王族であるという誇りを大事にする」
なので妾妃が生んだ王女として、一部の者たちから蔑ろにされることのあった丹よりも、一国の王女であり未来の王太子妃として皆から丁重に扱われる宜での暮らしの方が快適であり、大変満足していた。
しかも婚約者であるジャヤンタは、丹にも聞こえる程に美男であるので、リフィはとても自身が誇らしかったというわけだ。
この話だけを聞けば、なんとも視野の狭い王女様である。
「リフィは親切な方ですのに」
「アレは、こちらに来てからの教育の成果だぞ?
リフィはなにも出来ない、やらない王女であったものだから、宜はさぞかし扱いやすかったであろうさ」
今でこそああして女官の真似事ができるまでになったリフィだが、茶を淹れることだけは上手いものであったけれど、他はひどいものだったらしい。
「人とは、どのようにも変われるという見本とも言えますね」
雨妹が友仁にそう述べるのに、沈が苦笑する。
「まあ、そのようにも考えられるな。教育した
なるほど、リフィの教育係は林であったのか。
そうなると、出会った当初のリフィと沈、林たちのやり取りが、また違って見えてくる。
あの時、側仕えのわりに主に強気に出て見せたのは、王女であるという己を、客人から沈や林よりも下であると見られたくなかったのかもしれない。
沈と林も「そのくらいは」と容認したのだろう。
――自分が王女であることが、存在意義だったんだろうなぁ。
雨妹はリフィのことを、そのように想像する。
先だって知り合った把国のダジャルファードもそうだったが、「王子」「王女」以外の生き方を知らない彼らは、生きていく道筋がどうしても細く、頼りないものになってしまう。
他人に照らされた道しか歩むことを許されず、歩く速度も自分で決められないなど、雨妹としては窮屈この上ない生き方だ。
そんな鬱屈した気持ちを抱いていたであろうリフィの心を、宜は満たしてくれた。
その上、丹に比べて潤沢な資金がある宜は、丹の生活と比べるまでもなく豊かだった。
「丹は牧畜の国で、良くも悪くも素朴な国民性だ。
戦乱商売で金の溢れる宜の生活は、さぞ真新しかったであろうよ」
沈がそう言って鼻を鳴らすが、雨妹としてはリフィの気持ちがわからなくもない。
雨妹とて、辺境から出てきて都をひと目見た時に、前世知識として知っていたとしても「すごい、都会だ!」と興奮したのだから。
リフィが都会的生活にしばし夢中になったのも、無理はないと思う。
「私、饅頭の温め直しが出来ます。
あと、白湯を作ったこともあります」
唐突にそう言った友仁は、どうやらリフィの話に己を振り返り、「なにかが出来る」と主張したくなったようだ。
「おお、友仁は見込みのある男よな」
この友仁の意見に、沈はホッとしたように頬を緩めた。
自分で話を振っておきながら、どうしても気分が重くなってきていた中で、友仁が雰囲気を軽くしてくれたのだ。
なにはともあれ、こうして宜での生活を心のままに謳歌していたリフィであるが、ある時ジャヤンタと共に行方知れずとなった。
その理由は「駆け落ち」である。
「え、婚約者なのに、駆け落ちですか?」
雨妹はきょとんとしてしまう。
駆け落ちとは、思う相手と添い遂げることを周囲に反対されるからこそ、決行する行為のはず。
婚約者であれば、むしろ添い遂げる将来を約束された立場であろうに。
大いに首を捻らざるを得ない雨妹に、沈が告げる。
「リフィは唆されたのだよ。
『丹国がこの婚約を白紙に戻そうとしている』とな」
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