第364話 色々、合流

「あぁ~、生きてたぁ!」

「こらこら、私を勝手に死なせないの」


そう言って肩に泣き顔を押し付けてくるジンの頭を、雨妹ユイメイは苦笑を漏らしつつもヨシヨシと撫でると、静の服がしっとりと濡れており、ところどころに焦げができていることに気付く。


「静静、火を消すのを手伝っていたんだね」


雨妹がそう言うと、静が「ん!」と頷いた。


「教わったもの、だから私にだってできる!」

「偉いぞぉ~!

 そうだよ、火事を消すのは、私たち掃除係のお仕事なんだから!」


雨妹が感激のあまり、抱きしめてギュムギュムとすると、静が「へへ」と笑いを零す。

 そんな雨妹たちを見守る視線に、やがて静が気付く。


「あれ、そっちはダジャ!?」


驚いて目を丸くする静に、雨妹は小声で「静静、シィーッ!」と言い聞かせる。


「あ、そっか。

 入っちゃいけないから……わかった、シィーッ、だね!」


静もダジャは本来ここにいてはいけないのだと思い出したようで、雨妹にそう返してから、改めてダジャを見た。


「無事、よかった」

「そっちこそね!」


小声で告げたダジャに静もニヤッと笑みを見せるのが、やはり都まで共に旅をした同士といった風である。

 このような状況ながら静とダジャが再会を喜んでいるところへ、鋭い声が響いた。


「おちついて行動しなさい!

 下手に火を扇いで大きくしないように!

 幸いなことに、火は建物には届いていない!」


現れたのは太子であり、厳しい表情で突然の火事に浮足立つ者たちを鎮めている。


明賢メイシェン様!」


立彬リビンが声をかければ、太子がその姿を見てホッとした顔になる。


「戻ってくれてよかった、雨妹も無事だね?」

「はい、この通りピンピンしています!」


こちらにも声をかけきた太子に、雨妹はニカッと笑みを返すと、太子は目を細めて小さく頷く。

 そしてとりあえず話をしたいが、そのために火の粉が避けられる場所に行こうとなり、風上の方の屋根の下へと移動する。

 そこへは先客としてエン淑妃がいた。

 

「雨妹、無事でいらしたのね」

「恩淑妃!

 後輩の身をお預かり下さり、感謝いたします」


こちらに近寄ってきた恩淑妃に、雨妹は礼の姿勢を取る。


「あのね、お茶とお菓子を貰ったの」

「それは、本当にありがとうございます。

 良かったね、静静」


すると静がそう言い添えたので、雨妹はもう一度礼を述べた。


「ふふ、わたくし、あなたの役に立てたのね」


これに、恩淑妃が微笑む。


「でもあそこ、せっかく綺麗なお花だったのに、燃えちゃったんだね……」


けれどふと庭園を見た静がしょんぼりと呟くのに、恩淑妃も悲しそうな顔になる。


「ええ、せっかく庭師たちが綺麗に育ててくれた庭でしたのに」


このように、静と恩淑妃がふたりでしょんぼりとしてしまう。

 静の育った苑州では緑が少ないと聞くので、花なんて滅多に見られなかったのだろう。

 燃えてしまって哀れな姿を晒す花たちに、静が悲しそうな視線を向けるのに、雨妹はその頭を撫でて慰める。

 すると、太子が静と恩淑妃を交互に見やった。


「優しい娘たちだ。

 花は、まだ生きている部分を育てれば、いずれまた咲くだろう。

 けれど、花の美しさを惜しんでくれたその気持ちを、私は嬉しく思う」


太子がそう話したのに、静は目をパチパチとさせる。


「そうだよ、百花宮の庭師さんはすごいんだから、きっとまた綺麗な花を咲かせてくれるって」

「……うん」


雨妹も重ねてそう語ると、静は少し安心したようだ。


「そうですわね、人が無事だったことを、まず喜ばなければ」


恩淑妃も気持ちを持ち直したように述べると、静と目を合わせて「ふふっ」と笑う。

 それにしても、妙に打ち解けている静と恩淑妃だが、思えばこの二人は年頃も近い。

 短い時間ながら、案外気が合ったのだろうか?


 ――そうだよね、静って実は、恩淑妃の友人として身分が釣り合うんだものね。


 こんな混乱の中での出会いに、雨妹は微笑ましい気持ちになるのだった。

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