第328話 なんだかんだで盛り上がる
人とはあまりいい気がしない相手であれ、共通の友好的な知り合いがいるとわかると、とたんにイライラした気持ちが若干和らぐこともあるのが不思議である。
皇子の方は、さらに寛いだ様子で卓に肘をついて話をしてくる。
「そなたは、ずいぶんと牡蠣を気に入っていたと聞く。
よくあの不気味なものを食せたものよ」
雨妹が大好きな牡蠣を不気味と評されるのは悲しい。
「いつか皆が思い知ることでしょう、美味しさは見た目を越えるのですよ!」
鼻息荒く告げた雨妹としては、「不気味」ではなく「独特の見た目」と言ってもらいたいものだ。
けれどこの意見に、皇子が「そうか?」と首を捻る。
どうやら雨妹に同意しかねるらしい。
「だが、ならばそなたにはいつか、ぜひ我が揚州の名物も食して欲しいものよ。
蛇肉料理を食べたことがあるか?
あれは食べると病みつきになるぞ」
「蛇肉ですかぁ」
生憎と雨妹は前世でも、蛇肉は食べたことがない。
珍しい肉だと、せいぜい蛙肉くらいであろう。
「
さらに述べる皇子だが、豪猪とはつまりヤマアラシのことである。
あのようなものまで食べるとは、まるで揚州とは前世で言うところの、四つ足は机と椅子以外はなんでも食べるという広東人のようだ。
このように雨妹と皇子の会話が盛り上がっていると、傍らから横腹をツンツンと突かれた。
「ねえ、この人って知っている人だったの?」
しかし問われてみれば、説明するのは少々難しいかもしれない。
「いや、知らない人なんだけど、知り合いの知り合いだったみたい」
雨妹の方も小声で説明すると、静がしばらくウンウンと考える。
「知り合いの、知り合い……つまり他人?」
そしてやがてそう結論付けた。
確かに間違ってない、雨妹とこの皇子ははっきりきっぱり他人である。
「ふむ、なかなか真実を突く娘よの」
雨妹たちの会話が聞こえていたらしい皇子は、静の意見に機嫌を悪くするかと思いきや、そう言ってクスクスと笑う。
「そういえば、名乗っておらなんだか。
我は
皇子から下手に名乗られてしまったことに、雨妹は内心で「うげっ」と呻くが、顔には出さずに微笑む。
「私共は名乗る程の身ではございませんのに、ご丁寧にありがとうございます」
雨妹は沈にそう言って、静と並んで礼の姿勢をとる。
雨妹の名はもう知っていたのだし、こう言えばここで静を名乗らせずに済む。
それにこれでこの皇子が皇帝の兄弟の方だと知れたが、「一応は」という気になる言葉について、雨妹は聞き流す方向で行きたい。
「そういえば、そなたたちは料理を食したのか?
まだであれば、我に遠慮することはない。
食せる時に食しておくのは大事ゆえな」
そして、皇子はようやく雨妹と静がこの場にいる目的に思い至ったらしく、食事の許可を出してきた。
「「ありがとうございます!」」
雨妹は静と声を揃えて礼を告げると、二人で顔を見合わせ、やっと食事にありつけるとホッとしていると。
「おい、そこの宮女」
またもや、知らない誰か男の声がこの場に響いてきた。
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