第231話 不思議がられた
今日の献立は小豆の粥だ。
小豆は赤い色が目出度い色合いだからということで、春節で料理によく使われた食材であり、この小豆の粥も頻繁に出てきた。
同じ小豆の粥で、前世のぜんざいに似た
春節は過ぎたとはいえ、まだまだ冷えるこの時期に小豆の粥は身体が温まるので、ありがたい料理である。
――
「いただいて行きます!」
雨妹の部屋には静を連れた
「小妹、あとは頼んだよ。
問題があれば早めに相談すること」
「はい、わかりました!」
楊がそう告げるのに、雨妹は大きく頷く。
こうして楊が去ったところで、居心地悪く壁際に立っている静に、雨妹は手招きする。
「ほら静さん、夕食を食べようか。
ここの食堂はなかなか美味しいんだよ?」
そう呼び掛けた雨妹は、小さな卓に盆を置いて白湯を二杯淹れる。
静は夕食を並べる雨妹を窺いつつ卓に近寄ると、すとんと座った。
「さあ、食べよう!」
雨妹が促すと、しかしまだ不可解そうな顔をしている静が口を開く。
「あなたたちはなんで、私にあれこれ話を聞かないの?」
なにを言うかと思えば、そんな事であった。
静はどうやら宮城に着いたとたんに、事情を根掘り葉掘り聞かれると考えていたようだ。
この問いの答えを、雨妹はきょとんとして返す。
「そりゃあ、どこで誰が話を聞いているかわからないからだろうと思うけど?」
「……は?」
雨妹が誰かに直接聞いたわけではないけれど、察していた内容を言ったのに、静はなにを言われたかわからないという調子で声を漏らす。
――まあ、そういうこともまだわからないか。
雨妹は仕方ないので粥が冷めるのを覚悟して説明する。
「あのね、大事な話なんでしょう?
だったら話す相手を選ばないと。
皇帝陛下と話をしたいのだったら、皇帝陛下以外に話したい内容を簡単に話しちゃ駄目。
どこかで話が捻じ曲がって、変な事になっちゃうかもしれないでしょう?」
この後宮で気を付けなければならないのは、盛大な伝言ゲームの被害だ。
口伝いの連絡ほど信用ならず、文字の読み書きができる人材はより正確な情報のやり取りができるということで、特に重宝されたりする。
それに、情報が味方に伝わって上手く根回しがなされるのならばともかく、敵方に伝われば事態は悪化するしかないだろう。
「宮城っていう場所はね、そこいらの壁に耳がついていて、独り言だって誰かに聞かれていると思っていないと、失敗するからね?」
雨妹がこんな風にちょっと脅すと、静はぎょっとして周囲をキョロキョロと見回す。
もしかすると、本当に壁に人間の耳がついているのかと考えたのだろうか?
「ほら、天井だって普通に天井板だけど、その上に誰かがこっそり隠れていたら、話を聞き放題でしょう?
そういうこっそり隠れている人が大勢いるのが、この宮城って場所なの」
雨妹の説明に、静は「なんだ、そういうことか」と漏らす。
「けど、ずいぶん怖い場所なんだね」
そう話す静がちょっと顔色を悪くしたが、皇帝が住まう場所が怖くないはずがないだろう。
それにこうした事情は何大公家でも同じであろうに、静はこれまで一体どういった生活をしてきたのだろうか?
しかしこうした疑問を、雨妹があまり追及するものではないだろう。
雨妹の役割はあくまで、静の世話係なのだから。
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