第229話 夕食の時間です

色々やっていると日が暮れてきて、気が付けば夕食の時間である。


「ご飯は、今日はジンさんと一緒に私の部屋で食べた方がいいんですかねぇ?」


雨妹ユイメイはそう考えを口にする。

 静は自ら望んだとはいえ、急激な環境の変化で疲れているだろうし、新人として紹介する前に食堂へ行くと、妙な人たちに絡まれかねない。


 ――いるんだよねぇ、新入りにはまず絡みにいって自分の立場を誇示したがる人っていうのが。


 そう、例えるならば李梅リー・メイのような人間である。

 静がここまで移動してくる際に見かけた者もそれなりにいただろうし、そうした人たちから新入りの噂が広まっていることだろう。

 となると、食堂はきっと噂で持ち切りなはずだ。


「そうだねぇ、夕食の時間は酒が入ることもあって、揉めることが多いのは確かだ。

 曰くがありそうな新入りを初めて連れていくなら、朝の方が向いているだろう」


ヤンもこのように話す。

 ちなみに雨妹の新入り初日は、他の新人が軽い仕事の説明だけを聞かされてのんびりと旅の疲れを落としていた時に、李梅によっていきなり王美人の屋敷掃除をさせられたのだったか。

 そして先程楊が言った通り酒ではっちゃけている宮女を避ける目的で、新人だけで食べるようにと夕食が用意された部屋に、ギリギリで滑り込んだのだ。

 今思い返しても、李梅は無茶を言ったものである。

 ともあれ、楊も雨妹の考えに賛成してくれたので、夕食は部屋で食べることにした。

 なので早速、雨妹の部屋へ移動である。


「小妹は静と二人分の夕飯を取ってきな。

 その間に私が静を案内がてら、布団を取ってからお前さんの部屋に連れていくよ」


「わかりました!」


楊の指示に返事を返した雨妹は、食堂が込み合う前にと駆けていく。


 ――静さんの口に合うといいけど。


 なにしろホー大公の姉なのだから、食事は上等なものを食べていた可能性が高い。

 けれど一方で、都までの旅の間は、一体どんなものを食べていたのか? 山越えをしてきたのだから、そんなに多くの食料を持っての移動はできなかったはずだろう。

 その上、静は饅頭泥棒未遂をしでかした時、お金で食料を買うということを知らなかったのである。

 となると、食料調達係がダジャの方であったのだろうが、異国人の彼が道中に立ち寄った里での食料調達で、どれ程の交渉ができたのか?

 様々な懸念事項が挙げられ、道中の食料事情が察せられるというものだ。


 ――静さんは今成長期なんだから、ちゃんと栄養のあるものを食べてもらわなきゃ!


 そんなことを考えつつ、雨妹は食堂へと入っていく。


美娜メイナさぁ~ん、夕食を二人分の持ち出しでお願いします!」


まだ人が少ない食堂で雨妹が声をかけると、厨房にいた美娜が振り向いた。


「おや阿妹アメイ、戻っていたんだね。

 珍しい、部屋で食べるのかい?」


雨妹は食堂の賑やかな雰囲気で食事をするのが好きなので、美娜がこう言うのも無理はない。


「ええ、ちょっと理由がありまして。

 いずれ耳に入るかと思いますけど、実は新入りが来たんです!」


雨妹がそう暴露すると、厨房の他の台所番や、少ないながらも食堂にいた他の宮女たちが聞き耳を立てた気配がした。

 しかし「仰天情報を聞いた」という様子でもないので、やはり静を移動させた際に見かけた人がいるのだろう。


「おやまぁ、やっぱりかい」


美娜が夕食の持ち出しの用意をしながら、興味津々といった顔だ。


「新入りは寒くなる前に入っただろうに、なんでまた?」


質問をぶつけた美娜に、この場の全員がその答えを待っているのが感じられる。


 ――結局みぃんな、野次馬なんだよなぁ。


雨妹は内心で苦笑した。

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