第226話 移動です!
「よし、じゃあとっとと移動だ!」
せっかくまとまった話が混ぜ返されないうちに動こうと思ったのかもしれない。
「そちらの
ダジャだったな、お前さんの方は俺と一緒に来い」
李将軍が改めてそれぞれに指示した時、しかし静が「え!?」と声を上げた。
「ダジャと一緒じゃないの!?」
今更な事実に驚いている静が、自分がダジャと別々に連れていかれるのだとわかってオロオロとしている。
これまでダジャの行き先については特にひそひそすることなく話していたので、聞こえていたはずだろうに。
これを聞いていなかったのか、もしくはどういうことかよくわかっていなかったようだ。
――落ち着いて見えても、心の中はいっぱいいっぱいだったのかも。
なにしろ、まだ数えで十歳の子どもなのだから。
そんな静に、ダジャからはなにも声をかけない。
むっつりと黙り込んでいるが、語彙が足りずに、なんと言えばいいのかわからないのかもしれない。
――どうするの、コレ?
それどころか、雨妹と目が合うと目配せをしてきた。
どうやら雨妹になんとかしてほしいらしい。
雨妹は「しょうがないなぁ」とため息を吐くと、静の前にしゃがんで、その目を真っ直ぐに見た。
「あのね、後宮は皇帝陛下の住まいなんだけど、そこは男の人は入れないっていう決まりなの。
それでもなんとかして入ろうと思ったら、男の人ではなくなる必要があるけど、あなたはダジャさんにそうしてほしいの?」
雨妹が後宮についてわかりやすいように説明をすると、静が首を捻る。
「男の人じゃあなくなる、ってなに?」
静がそこに疑問を抱くところを見ると、彼女は大公の姉であるというのに、後宮のしくみについてなにも聞かされずに育ったのだろうか? 四夫人の立場すら狙える身分だというのに、不思議なことである。
「聞いたことがない?
股にある男の人の印を切り落とすの。
そういう刑罰だってあるでしょう?」
雨妹は変にぼやかして伝えてもどうかと考え、はっきりと言うと、静はとたんに青い顔になった。
どうやら、どういう事をされるのかわかったようだ。
「それ、嫌だ」
静が呟くのに、雨妹は「ね、そうでしょう?」と頷く。
「だからそうしなくて済むように、李将軍が兵士さんたちの住まいでダジャさんを預かるの。
大丈夫、ダジャさんが行く所も、静さんが行くところも、同じこの宮城の中だよ」
「……そうなんだ」
遠く離れた場所に行かされるわけではないと知り、静はちょっとホッとしたらしく息を吐く。
――子どもらしいっていうことなんだけど、短絡的だなぁ。
雨妹は気を付ける事として心の中に書き留めると、話を続ける。
「あなたが心底ダジャさんと会いたいと願えば、皇帝陛下がいずれきっと取り計らってくれると思うの。
だから今は、一時のお別れを承知してくれるかな?」
「……わかったよ」
静がようやく納得したところで、やっとこの場から移動することとなった。
先に李将軍がダジャを連れてこの場を離れると、雨妹たちも静を連れて宮女の宿舎へと向かう。
静が足を怪我していることを考えて、戻りも車だ。
ちなみに、明家からここまでの移動は、ダジャが静を背負ってきたのである。
ダジャとしても静の足の怪我に気付かなかったことで、気落ちしている様子だった。
戻って最初にやったことは、やはり身体検査だ。
雨妹の入った部屋に、静だけが楊と一緒に入る。
「ひいぃ!? なに、なにっ!?」
部屋の中から静の悲鳴が聞こえてくるが、これは必要な儀式であるので、雨妹は見守るしかできない。
というか、雨妹には近くで見守っている暇などなかった。
静に着せる宮女のお仕着せを用意しなければならないのだ。
洗濯係に楊の名前を出して余っているお仕着せを貰い、他にもあれやこれやと道具を抱えて楊が待つ部屋へと戻る。
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