第225話 行き先決定

 ――ああでも、だから苑州ってあんな変な立地なのかぁ。


 雨妹ユイメイは同時にそう思い至って納得顔になる。

 日本のように横長の国ならばいざしらず、円形の国土で中心に都を据えているわかりやすい地理なのに、苑州は何故に国内の出口が一つしかない、しかもよその州を介さないと都に行けない立地なのかと、雨妹は以前に地図を見せてもらった際に不思議に思ったものだが、まさかそんな歴史があったとは。

 以前はちゃんと都を有する耀州と直接行き来ができていたのだ。


「理解しました、立彬リビン様に会っても言いません」


雨妹が真面目な顔でそう宣言するのに、しかしリー将軍が不安そうにしている。


「頼むぞ? お前さんたちは仲良しだから、なにかの拍子にペロッと喋るとかしないでくれよ?」


そしてそんな風に念を押してくるではないか。


「ご安心を、私は野次馬以外でのそういう風な公私混同はしませんので!」


「野次馬云々は余計だよ」


自信満々で告げる雨妹に、ヤンからツッコミが入る。

 しかし嘘はいけないので、素直が一番である。


 ――それにしても立彬様、私たちって李将軍から仲良し認定されちゃってますよ!


 雨妹としても、立彬は気安い相手であるのは確かだが、だからと言って「仲良し」すなわち「友人」かというと、微妙である。

 立彬とは、立勇リーヨンであっても、友人というほど仕事以外の雑談を普段している記憶がないのである。

 では立彬との関係性をなんと呼ぶのか?

 「腐れ縁」というのが、しっくりくる気がする。

 そして立彬の方も、案外似たように言うに違いない。

 そんな雨妹と立彬との関係性はともかくとして。

 ジンは新入り宮女として後宮に入れて、このことについて太子周辺の人には内緒である、ということが決まったところで。


「私、どうなるの?」


ここまでの話に、口を挟まずにいた静とダジャだったが、話が一段落したらしいことを察した静が、不安そうに問うてきたので、雨妹は彼女に向き合う。


「あなたはこれから、私が暮らしている所に来てもらうことになりました」


雨妹がそう説明するのに、李将軍が「そうだ、しかもそこは皇帝陛下の住まいだぞ?」と付け加える。


「お前さんの『皇帝陛下に会いたい』という目的は、まあ叶える方向で動いてみるが、それでもすぐにというわけにはいかん。

 その間に、お前さんに消えてもらうと困るのだ」


李将軍がそう語る。

 しかし、これに当の本人が不思議そうな顔をする。


「私は、どこにも行かないよ?」

その純粋な言葉に、李将軍は困ったような顔になった。

 

「いや、消えるというのは……」


けれど詳しく説明しようとして、静がまだ子どもだということを思い出したのか、言葉を飲み込む。


 ――子どもに向かって、殺されるのなんのっていう話はしたくないよね。


 さて、ではなんと言って連れていくか? と李将軍が悩んでいると。


「お前が消えない、相手は知らない。

 安心させるの必要」


ふいにダジャが静に告げた。


「必要なこと?」


「そうだ」


静が聞くのに、ダジャが肯定する。


「ダジャがそうしろって言うんなら、そうする」


そして、そう結論付けた。


 ――ずいぶんダジャさんを信用しているんだなぁ。


 それは静の素直さなのか、これまでの経緯での信頼関係なのか、そこは雨妹たちにはわからない。

 けれど、かすかな危うさを感じたのは確かだ。

 苑州の何家の傍流というわけではなく、大公の姉であるのに、この素直さは長所であるのか? と首を傾げてしまうのだ。

 しかし、こちらの提案を呑んでくれるというのだから、助かる話だろう。

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