第206話 緊急会議
***
春節も迫っており都中が慌ただしい中、話し合いのために宮城内のとある広間に人が集められていた。
しかも、皇帝の御前である。
広間の奥には床が一段高くなっている場所があり、そこは皇帝の
その椅子には人影があるものの、今その場所は御簾が下ろされて中が窺いにくくなっていた。
いつごろからか、皇帝との謁見はこのように御簾越しになったため、「椅子に座っているのは偽物なのでは?」という噂があちらこちらで囁かれていたりする。
今この場にいる官吏たちの中でも疑っている者がいるだろうが、もちろん口に出してはなにも言わない。
ただ御簾の中から伝令される内容を伝える右丞相の言葉を聞くだけだ。
その人々の中には、
この場には少人数ながらも国の中枢を担う人間が集まっている。
その中でも若輩者の明賢はこの場にいることを許されているものの、口を挟まずに立っているのが役目であると言えるだろう。
これも、未来のための勉強というわけだ。
――人前に顔を出したくないのは、まあ当然だろうな。
立勇は御簾を眺めながら、内心でそう呟く。
なにしろ志偉は宦官に扮するために、髭をそり落としてしまったのだから。
髭がある程度伸びるまでは、この御簾は上がらないだろう。
このことを上の者は察しているので、「皇帝偽物説」が囁かれても、皇帝の側近からは問題視する声が上がらないのだ。
そんな一部の人間の生暖かい視線を御簾の中の人物が受けながら、会議が始まった。
「
右丞相に促され、李将軍が前に進み出る。
そう、これは
そして苑州について裏事情を知っているのではないか? ということで、先だって記憶喪失から回復したばかりの男、
長く宮妓をしていた徐であるので、もしかするとそうした思惑を察していたのかもしれないが。
本来ならば、朱から直接話を聞いた明が報告に来るべきなのだろう。
だが朱が以前に何者からか襲われたことがあるらしく、目を離さないように屋敷を外せないため、代わりに李将軍が報告役をしているということだった。
「はい、朱がうまい具合に部下の明へ気心を許せているので、だいたいの事情がわかっております」
そう前置きをした李将軍が明から聞いた、朱仁の話とはこうだ。
朱は苑州の隣国との国境での紛争に参加していた。
国境には苑州側に砦があるのだが、朱ら一般兵は立ち入りを禁じられていたという。
なんでも敵に知られてはならないことが多くあるので、それを敵側に情報を漏らさないために、出入りを厳しく取り締まっているという話だった。
なので朱たちは近くの村にある兵舎で生活し、そこから国境まで通っていたらしい。
夜間は砦が国境を監視すると言われ、一般兵は兵舎に返されていたそうだ。
しかも、砦に戻らないように見張りまで立っていたという。
毎日小競り合い程度の戦闘はあったものの、それも命の危機を感じるような激しいものではなく、隣家同士の喧嘩が大げさになったようなものだと、朱は感じたらしい。
「それはまた、ずいぶんと生温い戦場だったようですな」
皇帝に従って戦場に出たことのある古株の人物だろう、そんな呆れ声を漏らす声が上がる。
「朱も、『この程度でわざわざ都にまで徴兵をかけたのか?』と不思議だったそうですな」
李将軍がそう説明する。
朱がそんな毎日を過ごしていたある日、彼は落とし物をしたことに気付いた。
それは徐に貰ったお守り袋だったそうだ。
探しに戻りたいが、見つかったら大変なことになるだろう。
事実、興味半分で夜中に砦に戻った同僚は、それ以来姿を見ない。
けれどどうしても探したい朱は、幸い月が明るかったこともあり、灯りを持たずに見張りを避ける道を歩いて戻ったという。
そして自分が昼間にいた辺りを探していたところ、朱は見てしまった。
なんと砦の門が開いて、敵であるはずの隣国の馬車が入っていったではないか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます