第129話 冬到来
中秋節が終わったら、冬が駆け足でやって来る。
「うー、さぶっ!」
寒いけれども、ここでは住まいもすき間風がビュウビュウであるわけでもないし、綿入りの服もあるので、麻の服を着ていた辺境での冬に比べると快適なのだが。
辺境での暮らしだと綿が手に入らず、防寒と言えば毛皮であった雨妹は、百花宮で今生初の綿入り服を手に入れることができた。当然、自作である。
この国では都などの人の大勢集まる場所だと既製服が売られているものの、他の里では防寒着も含めて服というと自作である。
そのため百花宮では、実家から送られてきた綿入りの服を喜んだり、逆に実家の家族に贈る綿入りの服を作ったりで、誰もがせわしなかった。
雨妹は家族と綿入り服のやり取りをしている宮女たちを見ていると、「家族っていいなぁ」とちょっぴり羨ましい気持ちが湧き上がらなくもないものの。
そんなことよりも、綿をくれる親切な知り合いがいることに感謝する方が先だろう。
立彬が「これを使え」と綿を持って来たのは、辺境育ちの雨妹のことを「コイツ、この冬を毛皮で過ごすのでは?」と心配されたわけではないはずだ。
ちなみに辺境から着てきた毛皮は、都だと着ないことはわかっていたので、全て再利用に回してしまったのだが。(※書籍1巻参照)
その再利用品の一つが、雨妹の腰のあたりにぶら下がっていた。
小さな入れ物になっていて、中に温石が入るようになっている。
「はぁ~、温かい。これを思い付いた私ってばエラくない?」
雨妹は自画自賛しながら、中の温石でホカホカになっている毛皮を頬ずりする。
温石入れを毛皮で作ったら、ものすごく温かいのでは? という考えは当たったのだ。
温石が零れ出ないように釦で留めてあるので安全だし、これを腰にあたるように腰布に挟めば全身が温まる。
元の毛皮で色々作って余った端切れだが、有効活用できてなによりだ。
小さな三角耳をつけて、鼻や口の刺繍をして狼っぽくしているのが要点だった。
そんなわけで、今世の冬では最高に暖かい格好をしている雨妹だが、それでも首筋を襲う風の冷たさはいかんともしがたく。
その上、北風に翻弄される落ち葉に手間取らされながら、やっと掃除を終えた。
「は~、冬の掃除は大変だなぁ」
拭き掃除に使う水は冷たいのも難点だし、とにかく落ち葉が嵩張って仕方ない。
早く落ち葉が落ち切ってしまうのを祈るばかりだ。
――ま、落ち葉で焼き芋をするっていう楽しみもあるんだけどね!
雨妹は一人でにんまりと笑う。
今日だって
早速落ち葉を燃やそうと、空き地に向かう。
ちなみに、落ち葉ゴミなどを燃やすための空き地は、百花宮のあちらこちらにあったりする。
なにせ広大な敷地な上に、ゴミを運ぶのに前世のように便利な収集車などなく人力なので、掃除区画ごとに設置されていないと間に合わないのだ。
その内の一つに、雨妹は落ち葉を抱えてやってきたのだが。
――およ?
そこには、先客の女がいた。
こういう場所を使うのは、雨妹のような掃除係か、各宮のごみ捨て係くらいだろう。
そして今雨妹がいるのはどの宮からも遠い庭園のど真ん中で、ゆえに誰かとかち合うことなどないはずなのだが。
けれど実際、こうして先客がいて、しかも掃除係でもごみ捨て係でもなさそうだ。
なにしろ、宮女ではなさそうなのだから。
そこにいたのは格好が宮女のお仕着せではない、それでいて女官でも妃嬪でもない女だった。
――この人、
雨妹はその格好や髪型、雰囲気からそう察する。
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