第115話 またまた熊登場
そんなわけで。
なんにしても、
心配というものを、時に人はうざったく思う時もあるのだろうが、最後に背中を押してくれるのも、誰かが心配してくれているという思いやりだったりする。
逆に孤独は病を深くする原因にもなり得るから、恐ろしいものだ。
この楊の心配が明に届くように、雨妹もできる限り手を貸すつもりである。
――それにしても、手伝いって誰だろう?
楊が今日も人を寄越すように言っていた。
雨妹は「また立勇様かな?」と思いつつ、昨日も通った乾清門へと向かう。
「来た来た、おーい娘っ子!」
すると、門のところで見覚えのある熊男が手を振っていた。
「は⁉」
雨妹はギョッとして思わず立ち止まる。
昨夜ぶりの
いや、仮にも最高戦力なのだから、それが下っ端宮女のお供になるなんてことはないだろう。
しかし、それ以外で李将軍にあんなに朗らかに手をふられる理由など、雨妹には思い当らない。
立ち止まっている雨妹と大きく手をふる李将軍は遠目にも目立っていて、門を守る兵士から奇妙な視線を向けられている。
このままでいるわけにもいかず、雨妹は渋々李将軍に歩み寄る。
「あの、何故李将軍がここへ?」
恐る恐る尋ねる雨妹に、李将軍が笑顔で答えた。
「お前さんのお供だよ」
――やっぱりか!?
悪い予感が当たってしまった。
にしても、こんな目立つお供を選んだのは一体誰なのか?
まさか楊が指名したわけでもあるまいに。
これまで雨妹のお供といえば自動的に選ばれていた感のある、あの立勇もしくは立彬はどうしたのだ?
「私、てっきりお供はまた立勇様かと思っていました」
雨妹がそう零すと、李将軍が「ガハハ」と笑う。
「仲良しさんだったな、お前らは。
なに、上から話が来たんで俺が手を挙げたのよ。
あんまり立勇ばっかり駆り出すのも、太子殿下に悪いだろうしな」
李将軍から雨妹と仲良し認定された立勇は、どんな気持ちだろうか?
いつも「変な女だ」と思われているのはわかっているので、さぞ微妙な心境に違いない。
それに立勇も忙しい身の上だというのは、雨妹とて重々分かっているけれども、だからといって李将軍が暇だということでもなかろうに。
しかも今、李将軍は「上から話が来た」と言った。
楊が李将軍より立場が上であるはずないし、ではどこから話があちらに行ったのか?
――楊おばさんってば、一体誰にお手伝いの人手を頼んだの⁉
雨妹の周囲で、謎の人事が発動されているのに驚きだ。
そしてそれに手を挙げてのこのこやって来た、この熊男にも。
「いいんですか?
私、こき使っちゃいますよ?」
雨妹が挑むように問うと、李将軍がニヤリと笑った。
「いいぜ? 体力だけは有り余っているからな。
なぁに、明のヤツにいつまでウジウジしてもらっちゃあ、俺も困るんだよ」
どうやら李将軍は引き下がらないらしい。
というわけで、雨妹は最高戦力をお供にして、明の屋敷へ向かうことになった。
昨日は夜の暗い間に通ったので、明の家がどこであったか迷う雨妹を李将軍が先導してサクサク歩き。
屋敷へ来たもののどこから訪ねようかと迷っていると、李将軍が真っ直ぐ裏の戸口へと向かう。
「おやお前さん、また来たのかい?」
裏の戸から顔を出した昨日の老女が、雨妹を見て驚いた。
「はい、明様に朝から酒を飲ませるなと頼まれましたので」
「おう婆さん、まだ生きてたかい?」
雨妹と老女の会話に、狭い戸口に阻まれて姿が見えていなかった李将軍が横から顔を出す。
「おやまあ、将軍様ではございませんか、お久しゅうございますねぇ」
老女は李将軍に驚いたものの、過剰に畏まったりはしない。
そう言えば明は将軍にも覚え目出度い人物であったか。
それにしても裏口を知っていて家人とも顔見知りとは、李将軍と明はよほど懇意だったということか。
それからすんなりと中へ通された雨妹と李将軍は、明が今しがた起きたばかりでまだグズグズしている寝所へと案内されていた。
雨妹としては一応乙女であるので、寝起きのおっさんを好んで見たくはないが、これも楊のためと思って我慢である。
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