短編集

@urunon

第1話 JKだった私と火星人

給湯器が静かに鳴っていた。


昨日のようなことはもう二度としない。そう誓ったはずなのにふとした時に頭をよぎるのはその事ばかりだった。


コポコポコポコポ


明日のことだって何もわからない。来るかすらわからない明日の予定を立てたって無駄なのだ。来てから考えればいいじゃないか。


コポコポコポコポ


どうせ明日も8時に出社、定時を過ぎたって帰れない、行きたくない飲み会、行かなきゃいけない飲み会、断る理由を探しては苦笑いしか浮かばない。大学生の私と今の私、何か変わったのかしら。


コポコポコポコポ


「ちょっと、お茶、まだ?」


コポコポ


「あっすみません、ただ今」


コポコポ


なんだそれ、お茶くらい自分で淹れろ、ありがとうのあの字もないのか、うるさいな。


コポコポコポ….


「お待たせしました、すみません」


コポコポコポ


あぁ辞めたい。こんなところ今すぐ辞めて火星にでも行って、静かに、誰にも邪魔されないで、酸素ボンベが尽きるまで、ゆっくり外でも眺めていたいなぁ。


コポコポ コポコポ…



ガヤガヤガヤガヤ


ガヤガヤガヤガヤ


せっかく故郷から逃げて来たのに、なんだよ、これ。


ここは宇宙一綺麗な星じゃなかったのか?道には走る猛獣だらけ。

生命体がいるとは聞いていたがどいつもこいつも箱に夢中になってやがる。


ガヤガヤガヤガヤ


死ぬくらいなら、いっそやりたかった事でもやってから死のうと思ったのに、こんなところじゃ何にもできねぇ。


ガヤガヤガヤガヤ


俺がしたかったのは綺麗な…海?とかいうやつを見ながら、ゆっくり死にたかったのに、こんな、こんな…


ガヤガヤガヤガヤ


この星のやつらは俺の故郷を知ってるんだろうか?ここに生命体がいるなんて話、一つも聞いたことがない。


ガヤガヤ


どいつもこいつも暗い顔して、本当に。こんな薄気味悪い星、さっさと帰って酒でも飲もう。


ガヤガヤガヤ


そうだ。毎日悪い事だけ起きてるわけじゃない。いい事だってきっとある。そう思ってればきっといつか


キキィーーーーーーーーーーーーーッ バンッ


ガヤガヤガヤガヤ


本当にこんなところ、来るんじゃなかった。


ガヤガヤ ガヤガヤ…


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