第4章
第57話 皇女の御成婚
ラグドール神殿に来て1週間。
すっかりペットロスになってしまった私。
研究室での聖水の精製しかやりたくない。
そんな訳にはいかないんだけどね。
「あれ?ロザリオさん。
また聖水作ってんの?」
「アイレン先輩。」
研究室にアイレン先輩が急いでいる様子で入ってきた。
アイレン先輩はラグドール神殿所属でありながら、他の神殿の様子も調査しなければいけないから休む暇もないほど、魔法陣を活用している。
「今からコラットに行くけど、何か伝言ある?」
「そうなんですね。
お兄様にあまり無理をなさらぬようお伝え下さい。」
「了解。」
アイレン先輩が軽く敬礼して魔法陣の部屋に入っていった。
兄もコラット神殿や周辺の警備で忙しい様子で暫く姿を見ていない。あれ以来、他の神殿の彫像が破壊された報告も魔物が現れたと言う報告もない。
「ロザリオ?」
「シュナン、誰かに負けちゃったのかな・・・。」
精製されていく聖水の1滴をぼんやり見つめながら呟いた。ビションフリーゼは私の肩に止まったまま何も言わない。
「ん?」
ふと、気づく。
「この場合ってさ、シュナンを応援すればいいのかな?
それとも、他の神様?」
シュナンの正体はシヴァ神様であり、そのシヴァ神様が魔王ルシファーを演じている。今は、シヴァ神様として他の神様と勝負している筈だけど・・・。
「アタシはシュナンちゃんを応援したいところだけど、複雑よね~。」
「うん・・・。」
もし、他の神様に負けているのなら魔王として、早々に魔王軍を引き連れラグドール皇国を攻めてきそう。
「魔王に弱点とかあるのかな?
太陽とかニンニクとか十字架とか。」
「それは、吸血鬼じゃない?」
「知ってる。」
小分けにした聖水の瓶の蓋を閉めた。
また研究室の扉が開く。
「此所にいたのか。ロザリオ神官。」
「ジン副大神官。
どうしました?」
書簡を握り締めたジンさんだった。
「第一皇女アリア様の御成婚の儀が決まった。」
「え?」
「一週間後なんだが大神官と次期大神官が立会人として指名された。」
ロイヤルウェディング・・・。ステキ♡
「まぁ♡お相手はセラフィエル様ですか?」
美しいアリア皇女様のウェディングドレス姿とその隣に立つ美形騎士を思い描いた。
複雑そうなジンさんの表情。
後頭部をボリボリ掻き毟った。
「相手はスノーシュー国の第一王子だ。」
「は?」
「アリア皇女の配偶者となるのはスノーシュー国のバラディ王子だ。」
スノーシュー国は西の大国でラグドール皇国とは遠く離れている。
「キャルロットの件で呪術師を招いたりして交流の機会が増えたら、向こうから同盟の提案があったそうだ。」
「同盟と皇女の御成婚に何の関係が?」
「いや、スノーシューの王子からは10年も前から求婚されていたらしい。
それを今になってアリア皇女が受けたということだ。」
「・・・そうですか。」
国同士のことだし何か理由があるのだろうけど・・・。アリア皇女様の婚約者セラフィエル様が城に戻ってから1週間の間に何があったんだろ?
「そういえば、キャルロットの呪いが解けて話ができるようになったそうだ。
記憶の方はまだ曖昧らしいがな。」
「やっぱり呪術は強い怨念や恨みの思いがないとダメなんですね。」
シュナンがセラフィエル様に記憶を奪う呪いをかけた時の事を思い出した。遊び半分でかけた呪術にそれほどの効果は無かったようだ。それでも失敗することの多いという高度な呪術が一時的にでも成功したのは流石というべきか。
何だか研究室の外が俄に騒がしくなってきた。
「失礼します!
副大神官!大変です!
ネベロング神殿のマツヤ像が何者かに破壊されたそうです!!」
「副大神官!報告です!
バーマン神殿のシェーシャ像も突然崩壊したそうです!」
「サイベリアン神殿のヴァラーハ像も同様に破壊されました!」
ジンさんを見つけた神官達が研究室に押し寄せてきた。
「まさか、一気に3つの像が?」
腕を組んだジンさんが唸るように言った。
「いえ、先日の像を合わせて8つの像が破壊されました!!」
「ウソ。」
私は思わず口を手で覆った。
「ヴィシュヌ神像は無事か?」
「ヴィシュヌ神像に今のところ異常は見られません。」
「他の神殿にも更に警戒を強める様に伝令を頼む。」
「了解!」
神官達がまた慌ただしく研究室を出ていく。ジンさんは腕を組んだまま何かを考えている。
「不味いな。」
「そうですね。」
一週間後には皇女様とスノーシューの王子様との御成婚の儀が執り行われる。
ラグドール皇国の騎士、兵士の殆どは式典の警備に駆り出されるだろう。多くの貴族や国民もお祝いに皇都に集まる。
8神殿の像が破壊されたということはシュナンは他の神様との勝負に勝っている。最後のヴィシュヌ神様が敗北してしまったら、神殿の主神がシヴァ神様となるのだ。
この件が片付いたら『魔王ごっこ』を再開すると言っていたシュナン。魔王復活の舞台に皇族の御成婚の儀ほど相応しいものはない。
「その前に叩けるか。」
ジンさんが呟いた。
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