第3章

第41話 コラット鉱山

 コラット神殿研修5日目。今日から3日間はコラット神殿周辺の町の見回りだ。まずはこの辺りの豊富な資源の宝庫である鉱山へ向かっている。

 コラットでも超大型の鳥カルラを使っての移動だ。シュナンは一人で乗れないだろうと思い私と同乗している。日射しに照らされた赤と黄色の羽根は燃える炎のようでとっても綺麗。


 鉱山に降り立つと鉱山で働く人達が何やらざわざわしている。先に着いている筈の兄とアイレン先輩、セイヴァル様の姿が見えない。他のカルラと一緒の場所に手綱を結んだ。

 緊急を報せる鐘の音がけたたましく山々に反響する。小走りに坑道の入り口に向かうと、入り口から次々に人が慌てた様子で出てくるのが見えた。


「何かあったんですか?」


「ああ、あんたも神官さんか。

 魔物が出たんだ。かなりの数のようだ。

 何人かやられちまったよ。」


 鉱山の穴の中から男性の悲鳴のような声が聞こえる。怪我をした人が、二人の男性に抱えられて運び出された。とりあえず山の建物に移動して、怪我人に治癒の魔法を施す。傷の感じからすると獣の牙か爪か。刃物で切った時の様に綺麗な傷口ではない。

 この後は指示がなければ動けない。しかも、他にも怪我をした人達が次々に私の元へとやってくるので、鉱山の中の様子が全くわからないのだ。兄とアイレン先輩に限って、しかも騎士のセイヴァル様がいるのだから心配はないとは思うんだけど・・・。

 時折、兄かアイレン先輩が魔法を使っているのか、地鳴りのように微かに大地が震える。


「ビション。」


「アタシ、行ってくるワ。」


「気を付けてね。」


 こんな時、意外に頼りになるのがビションフリーゼだ。私の肩から飛び立つ勇敢な背中を見送った。気付くと、シュナンも訓練によりだいぶ上達した治癒の魔法を怪我人に施している。


「なんでこんなことに・・・。」


 一番怪我の状態が重いとみられる若い男性が呟いた。逃げるところを狙われたのだろう、肩から背中にかけて大きな鉤爪の跡が3本ついていて、傷口がバックリと口を開いている。傷口に手を当てて治癒の魔法をかけ続けた。こんなに治癒の魔法を使ったのは初めてだ。だんだん腕が痺れてくる。


「くそっ、援軍はまだか?

 神官3人じゃもたないぞ。」


「もしかしたら、あの人達・・・もうやられてるかも・・・。」


「そしたら、俺たちはどうなるんだ?」


 建物内に不安の色が広がる。

 鉱山内の様子はわからないし、ビションフリーゼもまだ戻らない。微かな地鳴りだけがまだ戦いは終わっていないことを告げていた。


 最後の一人かと思われる怪我人の手当てを終えて、立ち上がった。シュナンを見ると、慣れない魔法でかなりの体力を消耗したようでぐったりしている。私に笑いかける微笑みも弱々しく見える。儚げな微笑みも可愛い♡


 建物の外に出ると、丁度コラット神殿の先輩神官達が到着したところだった。


「先輩方、お疲れ様です。」


「ロザリオ神官。

 副神官長は鉱山内に?」


「はい。30分程経ちます。」


 先輩神官に報告をしてから坑道の入り口に目をやった。黄緑色のオウムがこちらに飛んでくる。


「ビション!!」


「ーーるーーっ!」


「え?」


「くーずーれーるーワーよーーー!!」


 一瞬、目が点になる。

 他の先輩神官も同じ様にポカンと口を開けている。


「にーげーてーーーっ!」


 直後、地響き。

 先輩神官達や鉱山で働く人達が、建物に向かって一斉に走り出した。建物には強い衝撃を耐えられる結界が張られている。


「待って!ビション!

 お兄様達は無事なの?」


「ロザリオ!ヴィダル様達ならもうすぐ出てくるワ!とりあえず逃げて!」


 坑道の入り口から飛び出してきた3人の姿にホッとした。何だか言い争っているようだけど。


「やり過ぎなんだよ!ヴィダルはいつも!」


 アイレン先輩が珍しく怒っている。


「ああでもしなきゃ、お前ら死んでたぞ。」


 兄が少しも悪怯れることもなく言った。いつものことだけど。


「逆にお前の魔法で黒焦げになるとこだったんだけど。」


 恨めしげに見るセイヴァル様の毒づきに反論もしない兄。本当に黒焦げにするつもりだったのかもしれない。

 命辛柄、3人とともに建物の中に避難した。振り返ると坑道の入り口が崩れるのが見え、大規模に鉱山が音を立てて崩れた。


「結界が破られていた?」


「ああ。たぶん弱ってた所に何かの弾みで。」


 地響きが収まったとはいえ、待機中。

 鉱山の中で戦っていた3人より、私とシュナンの疲労の方が激しい。アイレン先輩から魔力の回復を促す薬丸を頂いたお陰で、腕の痺れは無くなった。


「結界は元に戻せたけど、鉱山内の魔物がまだうようよしてるからね。出てくるのは時間の問題だよ。崩落でどのくらい潰れてるかだけど。」


 アイレン先輩が冷静な声で言った。まだ終わりではない。


「他の土地の結界も気になるな。」


 兄の言葉に先輩神官の一人が頷いて、建物の外に出ていった。


「よし、行くぞ。

 アイレンまだいけるか?」


「ヴィダルが無茶しなきゃ行けるよ。」


 アイレン先輩は薬丸を口に入れた。今までも援護の魔法で相当消耗してるハズだ。


「セイヴァルは?」


「愚問だよ。」


 セイヴァル様は神官用の細身の長剣から、自前の大振りの剣に変え、それを帯刀した。

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