第15話 もう帰ってください
「リオちゃんの席はどこかなぁ?
あ、神官長さん。壁の修理代はラグドール神殿宛てで請求書送っといて。」
「ビアンコ大神官。
ロザリオ=ビアンコ神官と呼んで下さいね。」
にっこり冷めた笑顔で父を見るが、それでも父はデレデレしたダラシナイ顔で私を見ている。
先輩神官達は通常業務に戻って、電卓を叩いたり資料整理を黙々とこなす。
「ねぇ~リオちゃん。パパとハグしようよ~。」
「お断りします。」
「何?人目が気になる?照れてる?
可愛いなぁ♡」
そもそも何故父がこんな感じなのかというと(おさらい。)、生まれながらに時期大神官の
いつの頃からか、厳しさの反動であろう隠しもしない常軌を逸した愛情の押し売りが常となっている。
「あー、そうそう。
シンガプーラでの指南係が悪魔らしいねぇ。
どいつ?」
「えっ!??」
何言ってんの?この親父。
父と目があったアイレン先輩がビクっと背筋を伸ばしたまま硬直した。蛇に睨まれた蛙状態。
「君がアイレン=ウィアーノ君?」
「は、はいっ!そうです!」
「宜しくお願いするよ。」
父は氷の様な冷たい視線をアイレン先輩に向けた後、またこちらにデレデレした笑顔で居直った。
オッサンの真顔恐いって。
「リオちゃんさー。研修とか充分でしょ。
もう今日でシンガプーラ終わりでいいんじゃない?コラットもすっ飛ばしてラグドール来なよ~。終了印、パパが押しちゃう☆
あ、何ならもう一緒に行く?行っちゃう?」
「結構です。」
下手なナンパ師か。
仮にも大神官でしょ。あんた。
「そういえばなんか静かだと思ったらビションちゃんは?
病気?サボり?」
私の肩が定位置のオウムのビションフリーゼがいないことにやっと気付いた父。
煩いのが1羽いなくて本当に良かったと思う。
「実はですね。
最近、仔犬を拾いまして・・・。
ビションフリーゼがお世話をしてるんですよ。」
「・・・犬か。雌?」
キラリと金色の瞳が光る。
やっぱりそこ、気になるのね。
ドォン!
本日2度目の魔法陣発動音。
「ヤベ。意外に早かったな。」
ペロリと舌を出す父。
まぁ、これはいつものパターンだ。父の背後に筋肉モリモリの屈強な男の影。
既に観念した父に逃げる素振りはなく、ポケットをゴソゴソし出した。
「おい。お前のスケジュールつかえてるっつってんだろ。いい加減にしろよ。クソが。」
屈強な男が低い地鳴りの様な声で言った。やや巻き舌気味。
ジン=ファンデル副大神官だ。
父の幼なじみで父より10歳以上年下らしいのだが、二人に年の差は全く感じられない。
脱走常習者の父を連れ戻しにきたのだ。
「いつも申し訳ありません。
ジン副大神官。」
「ああ、リオ神官。お疲れ。」
鬼神のような表情が一瞬で恵比寿様に変わり目尻が下がる。
ジンさんがいつの間にか私の手を取り、手の甲に軽くキスをした。
「お前、マジで殺すぞ。バイ菌野郎。」
目敏く見つけた父がジンさんを睨み付けて言った。
この人達一刻も早く帰ってくんないかな~。
「リオちゃん。これね。
パパからプレゼント♡
ワンちゃんに着けてあげてね♡」
「は・・・はい。
ありがとうございます。」
父がポケットからやっと取り出したのは銀色のスタッズ付きの黒くてゴツい首輪だった。仔犬っつったよね?私。
よく見たらハートのチャームなんか付いてる。
「大神官。ペナルティとして1秒毎に1%給料カットですから。」
「副大神官。馬鹿も休み休み言いなさいよ。立派な公務だぞ、これは。」
「は?大神官。
言っとくけど壁の修理代もお前の給料天引きだからな。」
「うっそぉ!?
副大神官。何とか上手くやってよ。
無能か?無能なのか?」
どうでもいいけど、二人の立場的にその口の悪さはどうなんだろ。
わちゃわちゃドツキ合いながら、崩壊した壁の奥に向かうオジさんふたりと、席を立ちあがり敬礼して見送るシンガプーラ神殿の神官達。
「リオちゃん、また来るねぇー♡」
帰り際、投げキッスを飛ばす父に無言で特大の光の弾丸を撃ち込んだ。
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