第1章
第1話 新米神官ロザリオ=ビアンコ
ぜーはーっ。
ぜーはーっ。
「もーっ!!
なんでこんなに階段ばっかりなの!?
はぁっはぁっ」
炎天下、山の頂上にある神殿に向かって延々と続く果てしない階段を、重い荷物を背負い一歩一歩重い足取りで私は昇り続けている。木々に囲まれているとはいえ、暑さに体力がどんどん奪われる。汗でビン底眼鏡がずり落ちてくるけど、もう直すのも面倒くさい。
新米神官の私は修行中の身なので、基本的には徒歩で旅をしなければならない『決まり』になっている。
バサバサっ。
頭上から羽音。
「ファイトよ~!
ロザリオーー!!がんばってぇーん♡」
旅のお供、オウムのビションフリーゼが私の肩の上に止まった。
「ビション、あとどれくらい???」
涼しいうちにと、日の出と共に登り始めたのに太陽は真上に差し掛かろうとしている。
木々に覆われている上に山をぐるりと囲んで大きく螺旋を描いている階段なので、目的地の神殿の姿が影すら見えない。
「あとモウチョットよー♡」
イヤ。
それ一時間前も聞いたし。
おネエ言葉イラつく。
「その羽根、いいなあ。」
ボソッと言った私の呟きにビションフリーゼは聞こえないフリして羽繕いを始めた。
あ、でもホントにもう少しかも。
周りの木々も少なくなってきた。
急に冷たく凛とした空気に神殿が近いことを肌で感じる。
私が向かっている神殿はラグドール
クリシュナ神様が祀られている。
新米神官の初仕事は皇国内の9神殿に1週間ずつ滞在して、自分の適性神殿を探すこと。
因みにシンガプーラ神殿で7つめの神殿となるので残り2つの神殿を回ればこの旅は終わりになる。
滞在中は他の先輩神官と一緒に礼拝をしたり神殿のメンテナンスをしながら神殿周辺の町を調査をする。神官って意外と武闘派集団だったりして、神や神の子孫である皇族に反旗を翻そうと企む輩には容赦ない。
日頃から魔法や武術の鍛練は欠かさないので、神官の中には職業の選択を間違えたのではないかという先輩もいたりする。
目指す神殿が近いとわかったら、自然と足取りが軽くなる。
ラスト数えたりしちゃおー。
「さんっ、にーっ、いちーーっっ!!」
ドドドドガーン!!!
「!!!?」
雲ひとつなかった晴天が急に暗くなったと思ったら、目の前のシンガプーラ神殿に雷が落ちたような衝撃が!!
地鳴りも半端ない!!
いやいやいやいやっ!
私のせいじゃないよ!?
確かにカウントダウンしちゃったけどさ。
「ぎゃああ!ナニナニナニ!?」
オウムのビションフリーゼが大声をあげて取り乱す。頭の上でバッサバッサギャアギャア鬱陶しい。ビションフリーゼの黄緑色の羽が何枚かフワフワ舞っている。
「何事だ!?」
「賊か?」
「おおーっっ!!?」
荘厳な佇まいの神殿から各々武器を手にした先輩神官たちがワラワラと飛び出してきた。
「ん?お前は???」
腰を抜かして座り込んでいる私の姿を見つけて、長い棒を持った男性の先輩神官が声をかけてきた。年の頃は20代後半くらいかな。
「お・・・お初にお目にかかります!!
只今、シンガプーラ神殿に到着しました・・・」
「ああ、」
私の声を遮るように、先程とは別の先輩神官が言った。もじゃ髭を蓄えたちょっとコワ面ての40代半ば位の男性神官だ。
私の目を食い入るように見つめている。
「ビアンコ大神官様のご息女ロザリオ=ビアンコ神官だね?」
その言葉を機に今まで右往左往に散らばっていた先輩神官たちの視線が一斉にこちらへと向けられた。
正しくは私の目に。
まあ、牛乳ビンの底みたいな分厚い眼鏡をかけていてわかりづらいけど、私の目は類い稀な金色をしている。
この金色の瞳は何十年か毎、大神官(神官のなかでも最高職)にしか受け継がれない証のようなものだそうだ。私の父は現役の大神官で、金色の瞳は必ずしも血族に遺伝するわけではないのだけど、今回たまたま大神官の娘である私に受け継がれた。
神官の制服に、二つに分けた髪を編み込んだ
毎度の事ながら『え?コイツが?』的な反応に少し傷つくお年頃だったりする。
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