第86話「クラーク復活」
目を覚ますと、麗しい
「おはようミノリちゃん」
「……おはようクラーク。読書はもういいの?」
むくっと起き上がり、くぁっと欠伸をひとつ。
「半分以上は読めたかな。ニホンゴ?ってやつじゃない見知らぬ文字の本もあって、全部は読めなかったけど」
この大量の本を一月足らずで半数以上……私より早い速読スキルに驚けばいいやら呆れればいいやら。
「外国語だね。日本語以外に七ヶ国語の書物があるから」
「是非教えてほしいな」
「いいけど、また今度ね。日本語と違って教えるのちょっと大変だから」
「そっかー。じゃあ今日のところは帰るかな」
よっこいせ、とイケメンフェイスに似つかわしくない声を出して立ち上がるクラーク。
そのまま帰るかと思いきや、私をじっと見下ろしている。
「……何?」
目を擦りながら問うと、クラークが私と目線を合わせるためにしゃがんだ。意味深な笑みを顔に張り付けて。
「無防備だねー。男がいるのにぐーすか寝るその神経疑っちゃうよ」
言葉の意味を理解するのに数秒。
……そういう意味で私を襲う物好きなやつなんてそうそういないと思うけど。
無表情がデフォルトな私の顔にその考えが浮き彫りだったのだろう、クラークは笑みを深めて私の顎を掬った。
「ミノリちゃん、自分に魅力があることを自覚しないと痛い目見るよ?」
「え、魅力なんて皆無だけど」
「ミノリちゃんが自分で打ち消してるんじゃん。残念な言動と行動の数々で」
打ち消すどころかマイナスに振り切れてると思う。
こんなどうしようもないぐうたら娘に欲情するやつなんていないって。
それに、
「クラークはそんなことしないでしょ」
ラクサ村の住人が私をどうこうしようとする訳がない。
真っ直ぐ目を見て言えば、クラークは固まった。
そしてぶはっと吹き出した。
「あはは、そうきたかー!」
え、何?なんで爆笑してんの??
「……クラーク?」
「はははっ!ツンケンしてた猫が急に懐いたときの心境と同じだなぁ」
なんか猫に例えられた。ツンケンしてたつもりも懐いたつもりもないのだが。
少しむっとして口を尖らせると、宥めるように頭を一撫でされた。
「その信頼を裏切らないよう努力するよ」
意味深な笑みが消え、今度は穏やかに、そしてなんだかとても嬉しそうにふわりと笑ったクラークは「書斎占拠しちゃってごめんね」と謝ってから軽く手を振って出ていった。
なんだったんだ、いったい……
まぁ、悪い気はしないけど。
外を見てみると真っ暗だった。夜の闇にラクサ村の住人の家から明かりが洩れる。
「……アレン帰ってきてるかな」
腹時計が晩ご飯はもうすぐだと告げている。
ベティの対応がめんどいから出たくないけど、ここから出なきゃ飯にありつけぬ。くそぅ。
枕之助を脇に抱え、引きずるようにして身体を床から引き剥がし、書斎から出た。
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